特集02

橋梁デザインと新材料
Bridge Design and New Material

素材が集積して大きな橋となり橋は景観と思い出の一部になる 北方圏環境政策工学部門 構造デザイン工学研究室 教授 松本 高志

[PROFILE]
○研究分野/橋梁工学
○研究テーマ/先進的複合材料による橋梁の高性能化
○研究室ホームページ
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/bridge/

Takashi Matsumoto : Professor
Laboratory of Bridge and Structural Design Engineering
Division of Engineering and Policy for Sustainable Environment
○Research field : Bridge engineering
○Research theme : High-performance bridge structures with advanced composite materials
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/bridge/

「向こうへ行きたい」
新材料に託す人類の夢

 大昔から人類は「川の向こうへ、谷の向こうへ行きたい」という思いを持ち続けています。川であれば歩いて渡れる浅瀬が渡河地点でした。例えば、イギリスのオックスフォードのフォード、ドイツのフランクフルトのフルトは浅瀬を意味し、旅人の集まる街となりました。浅瀬がなければ橋を架けるしかありません。今から見ると短い長さの丸木や石を渡しただけのものが、橋の始まりでした。以来、様々な構造形式の橋が架けられてきましたが、そこには新しい材料への果敢な挑戦があったのです。
 例えば、鉄鋼の技術開発により橋が一跨ぎする長さである支間長は飛躍的に伸びました。世界最初の鉄の橋は1779年にイギリスに作られた鋳鉄製アーチで、支間長は31mでした。次に錬鉄製の鎖による吊橋が作られ、支間長は177mに達します。吊橋はこの後飛躍的な進化を遂げます。鋼鉄製ワイヤを束ねた主ケーブルによる長大吊橋は1883年に486mでしたが、その後1000mを破り、現在最長の明石海峡大橋は1998年に1991mを達成しました。この吊橋の長大化を支えたのが鋼材の高強度化です。
 また、北海道室蘭市の白鳥大橋(図1)のように長大化のみならず造形に優れた美しい橋は、新しい材料の技術と経験の獲得と深い洞察によるところも大きいのです。

図1
図1 白鳥大橋─北海道の吊橋 Figure1:Hakucho Bridge
– A suspension bridge in Hokkaido

軽い、強い、腐りにくい
繊維強化ポリマー

 これからの橋梁デザインを変えうる新しい複合材料に、繊維強化ポリマー(FRP)(図2)があります。その大きな特徴は、軽量・高強度かつ非腐食性であることです。FRP製の軽くて強いケーブルにより、支間長がさらに長い吊橋ができる可能性があります。また、ケーブル以外にも適用することで、優美な造形の歩道橋等も可能になるかもしれません。非腐食性により高耐久的であることもポイントになります。
 FRPは直径数μmの繊維が整列したシートを積層した複合材料であり、微視的構造が構造部材の特性に大きく影響を与えます。研究室では、構造部材の破壊挙動を理解するために構造実験を行い、構造解析と画像解析の両方を実施しています。これにより設計式を構築して、FRPによる新しい橋梁デザインを目指しています。

図2
図2 炭素繊維強化ポリマー─微視的構造から構造部材まで Figure2:Carbon Fiber Reinforced Polymer
– From microstructure to structural member

technical term
繊維強化ポリマー 炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などで強化された高分子材料。