特集03

丘のまち交流館“bi.yell”の企画と設計
Biei Town Community Facility “bi.yell”

ユーザーと同じ目線に立ち、喜んでいただける空間づくりを目指して 建築都市空間デザイン部門 建築史意匠学研究室 准教授 小澤 丈夫

[PROFILE]
○研究分野/建築学、建築史・意匠
○研究テーマ/建築設計と設計者の社会的役割
○研究室ホームページ
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/rekishi/rekishi/Hokkaido_Univ_Architectural_History_and_Design_Lab.html

Takeo Ozawa : Associate Professor
Laboratory of Architectural History and Design
Division of Architectural and Structural Design
○Research field : Architecture and building engineering, Architectural history/Design
○Research theme : The roles of architectural design and architect
○Laboratory HP :
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/rekishi/rekishi/Hokkaido_Univ_Architectural_History_and_Design_Lab.html

築30年近くのスーパーが
コミュニティ施設に再生

 「丘のまち交流館“bi.yell”(ビエール)」プロジェクトは、北海道美瑛町の中心部で空き家となっていた2階建ての旧スーパーマーケットを、町民のためのコミュニティ施設にリノベーションしたプロジェクトです。展示やイベントができるギャラリー、子どものプレイルーム、カフェなど様々な世代がひとつにつながった空間で思い思いに過ごすことができる施設に生まれ変わりました(図1・2)。
 スーパーが建てられたのは約30年前ですが、その後建築基準法が改定され、構造計算上必要とされる積雪量は増えています。今回は建物の用途変更を伴う増築のため、新しい建物は現行の建築基準法に適応したものにならなくてはいけません。そこで出たアイデアが、旧建物を新たに独立した大屋根で覆う「鞘堂」案です。中尊寺金色堂など歴史的建造物を風雨から守るために昔から使われてきた知恵で、新しい大屋根に雪の荷重を負担させると共に、旧建物屋根のコンクリートを撤去・軽量化して、現行法に適応させることができました。

図1 図1 1階ギャラリースペース @阿野太一 Figure1:Gallery space on the 1st floor

図2 図2 2階レクチャースペース @阿野太一 Figure2:Lecture space on the 2nd floor

美瑛軟石や地場産木材が見守る
まちの記憶を継承する場に

 bi.yellの1階は天井の高いギャラリー空間です。壁には町内にあった古い石蔵の「美瑛軟石」を再利用し、石蔵入口のアーチ部分も再現しています。この石蔵には歴史的な価値があり、解体前に研究室の学生と石蔵の実測調査を行い、図面化し記録として残しました(図3)。2階は地場産のカラマツ材を随所に使い、大屋根の天窓から自然光が入る明るい空間となっています。特に美瑛町全体が雪に覆われる冬場には、子ども達が自由に走りまわれる楽しい遊び場になります。他にもまちなみを臨むバルコニーや広場、通りとつながるロッジアを設け、まちに開かれた空間を目指しました。
 隣にたつ建物は木質バイオマス棟です(図4)。中には木チップを燃焼させるボイラーがあり、冬期の暖房用温水を供給します。地場産木材の有効利用を目指す地域の取り組みです。このような技術的な工夫を各所に用いながら、様々なまちの記憶を継承する町民のための場を、どこのまちにもありそうな空き家の再利用によって実現しました。

図2 図3 研究室による石蔵の実測 Figure3:Survey of the stone-built warehouse by laboratory members

図2 図4 建物外観。左にはバイオマス棟がたつ。@阿野太一 Figure4:Front view. Biomass boiler house on the left side

technical term
リノベーション 建築物の改造。古い部分の補修や内外装を変更するリフォームに対し、増築・改築や建物の用途変更など、資産価値を高めるための大規模改造を指す。