特集02

健康と安全を支える住環境
Thermal Environment for Health and Safety

医療・介護従事者とともに広めたい 住環境を意識した冬の健やかな暮らし方 空間性能システム部門 
建築環境学研究室 教授 羽山 広文

[PROFILE]
○研究分野/建築環境・設備学
○研究テーマ/人口動態統計を用いた住宅内の安全性に関する研究
○研究室ホームページ
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kankyou/

Hirofumi Hayama : Professor
Laboratory of Building Environment
Division of Human Environmental System
○Research field : Building Environment and Mechanical
○Research theme : Study on the Safety in Houses based on Vital Statistics of Japan
○Laboratory HP :
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kankyou/

意外! 夏より冬の入浴中に
高齢者の溺死・溺水が多発

 私たちが普段暮らしている住宅は、安心して快適な生活を営む場であり、安全と健康の維持が期待されています。しかし、日本の住宅の温熱環境は先進諸外国と比較し良好とはいえず、冬期の暖房環境や空間の温度差などが人体に悪影響を与えています。
 これまで冬期に疾病発症が多いのは温度差によるヒートショックが原因と考えられていましたが、その定量的な分析は十分ではありませんでした。そこで、我々は厚生労働省の人口動態統計と気象庁のアメダスデータを連携し、気象条件と死亡率の分析を行っています。住環境と健康リスクの関係を評価することは、医療と工学を連携した有用な研究の一つです。
 図1は、死亡率の高い新生物(がん)や心疾患、脳血管疾患、溺死・溺水の月間死亡数を示したものです。冬期の自宅で溺死・溺水が多発する傾向が顕著に見られます。一般に溺死・溺水は夏期の水の事故を想像しますが、実は冬期の入浴中に多く発生し、その数は交通事故死とほぼ同数の年間約7000人にもなります。そして、その約87%を65歳以上の高齢者が占めています。
 図2は、全国都道府県の月平均気温と溺死・溺水の死亡率の関係を示したものです。外気温度の低下にともない死亡率が増加し、特に65歳以上の増加傾向が顕著です。これは、日本の住宅は断熱性能が十分ではなく、室温が外気温度の影響を受けやすいことが原因です。

図1
図1 月別死亡数(2003-2006年の平均) Figure1:The number of monthly deaths in Japan (Average of 2003-2006).

図2
図2 全国の都道府県別月平均温度と溺死・溺水の死亡率(2003-2009) Figure2:Relationship of prefecture month average temperature and mortality rate of drowning 2003-2009.

寒さが厳しくなる季節こそ
「温度のバリアフリー」を

 「生粋の江戸っ子は熱いお風呂が好き」とよくいわれますが、現実には熱すぎるお風呂の入浴は、実に危険です。脱衣室や浴室の温度が低いと、人は熱い湯を好む傾向があり、その温度差が血圧変動をもたらし、疾患発症につながります。入浴中の死亡リスクを減らすには、脱衣室や浴室の温度を25℃程度まで高くし、ぬるめの湯に入ることがお勧めです。
 住宅内はライフスタイルに合わせ、適切な温熱環境にすることが大切です。特に薄着になる脱衣室・浴室、トイレでは、利用時間が短くとも居室や寝室よりも高い室温が必要です。寒さの厳しい季節、住宅内の温度差を少なくする「温度のバリアフリー」を心がけ、安全と健康に配慮した生活の実現を目指したいものです。

technical term
ヒートショック 急激な温度の変化により血圧の乱高下や脈拍の変動が起こること。