特集01

わずか1滴の血液で迅速診断
Rapid Diagnosis by a Drop of Blood

目の前の患者のためにできることは何か 医学も工学も「実学」の志は同じです 応用化学部門  生物計測化学研究室 教授 渡慶次 学

[PROFILE]
○研究分野/マイクロ化学システム、応用計測化学
○研究テーマ/新しい計測技術に基づくバイオ分析・医療診断技術の開発
○研究室ホームページ
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/tokeshi_lab/

Manabu Tokeshi : Professor
Laboratory of Bioanalytical Chemistry
Division of Applied Chemistry
○Research field : Microfluidic Systems for Chemical and Medical Analysis, Chemical and Biological Sensing Technology
○Research theme : Development of bioanalysis and medical diagnostic methods based on new measurement technologies
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/tokeshi_lab/

診断結果待ちの不安を解消
すぐに結果がわかる技術を開発

 病院で検査を終えた後の待ち時間。不安な気持ちを抱えているせいか、ずいぶんと長く感じるものです。私たちは具合が悪くなると、病院へ行って診察を受けます。病院ではまず受付を済ませ、待合室でしばらく過ごした後、ようやく名前を呼ばれます。腕をまくって採血され、再び待った後、ようやくお医者さんの視診・触診が始まります。そして「では一週間後に来て下さい」。
 採血後の採血管は病院から血液分析センターに送られ、血中のさまざまな物質の量が調べられます。タンパク質などの増減を測ることで、病気の診断ができるからです。ところがこの測定に数日かかるため、我々は後日また病院へ行って、診断結果を聞くことになるのです(図1)。
 「採血してすぐに測定結果がわかれば、もう一度病院に行かなくていい」。これが実現できれば、我々が病院に行く回数は減り、しかも病気と診断された場合、すぐに治療を受けることができます。私の研究室では、蚊が吸うくらいのごくわずかな量の血液で迅速に病気の診断ができる「マイクロ流体デバイス」の開発に取り組んでいます。

図1 図1 血液検査の流れ Figure1:A series of blood text.

診断から治療まで
マイクロ流体デバイスに期待

 半導体やコンピュータの内蔵チップに用いられる微細加工技術を使って、微小な流路やフラスコのような反応容器を作製し、分析・診断や物質合成などに利用する小型装置のことを「マイクロ流体デバイス」と呼びます(図2)。このマイクロ流体デバイスの特徴は、反応させる試料や試薬がわずかな量でよいため、反応が迅速であるということです。
 私たちは、10分以内に大腸がんや前立腺がんの診断が可能なマイクロ流体デバイスを開発しました。将来的にはがんの診断だけでなく、さまざまな病気の早期発見、治療に役立つ医療検査ツールになると期待しています。また次世代の医薬品として注目を集める「核酸医薬」を、マイクロ流体デバイスを利用して作製する技術の開発に北大薬学研究院と一緒に取り組んでいます。工学は、「人に有用なものを作る学問」です。マイクロ流体デバイスの医療応用は、非常に魅力的かつ取り組みがいのある研究テーマです。

図2 図2 くねくね流路構造を持つマイクロ流体デバイス(蛇行した流路構造によって反応が促進する)  Figure2:Microfluidic device with a serpentine microchannel.

technical term
マイクロ流体デバイス マイクロチップ上で極めて微量の液体を扱うための装置。体液や細胞またはその一部を含んだ溶液が用いられる。「lab-on-a-chip(ラボオンチップ)」とも呼ばれる。