特集04

DNAで環境をまもる
Preservation of Environment by DNA

人の生活に直結する工学研究留学先で自分の枠を広げたい 環境創生工学部門 水環境保全工学研究室 准教授 佐藤 久

[PROFILE]
○研究分野/水環境工学、分析化学
○研究テーマ/水質分析センサーの開発
○研究室ホームページ
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/aqua/contents/HisashiSatoh/index-HisashiSatoh.html

Hisashi Satoh : Associate Professor
Laboratory of Aquatic Environmental Protection Engineering
Division of Environmental Engineering

○Research field : Water Environmental Engineering, Analytical Chemistry
○Research theme : Development of sensors for water quality monitoring
○Laboratory HP :
http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/aqua/contents/HisashiSatoh/index-HisashiSatoh.html

安く、素早く、簡単に
水の汚染を判別する

 DNAは生物の遺伝情報を次の世代に伝える分子として知られています。DNAの働きはこれだけにとどまらず、決まった物質と結合することもできます。このような特殊なDNAをDNAアプタマーと言い、この性質を活用してセンサーを作ることができます。DNAアプタマーに色を付けると、自分が測りたい物質を着色できるからです。
 DNAアプタマーが決まった物質にだけ結合するのは、DNAが4種類の塩基からなる鎖状の分子だからです。1個の塩基からなるDNAは4種類、2個の塩基からなるDNAは4×4で16種類あります。ですので、例えば40個の塩基からなるDNAアプタマーは4の40乗、すなわち約1.2×1024(1兆の1兆倍)種類も存在することになります。鍵の形が少しでも異なれば鍵穴に合わなくなるように、40個の塩基のうちの1つでも塩基が異なればそのDNAアプタマーはもはや対象物質に結合しなくなります。ですので、あるDNAアプタマーは水にさまざまなものが入っていても間違うことなく、対象物質(ぴったり合う鍵穴)とだけ結合します。
 現在私は病原微生物に結合するDNAアプタマーを探しています(図1)。これが見つかれば、世界中の誰もが水を飲む前にその水が病原微生物で汚染されているか否かを一瞬で判断できるようになります。今のところはDNAアプタマーの結合量が少なく回収できないため、まだ発見にはいたっていませんが、今後も粘り強く取り組んでいきたいと考えています。

図1 図1 病原微生物に結合するDNAアプタマー Figure1:Schematic illustration of aptamer binding to a pathogenic microorganism.

世界の研究者と出会い
新しい技術を開発する

 現在私はアメリカのイリノイ大学に留学中です。所属研究室の Yi Lu教授はDNAアプタマーの専門家です。研究室にはアメリカ人の他にも中国、韓国、インド、イラン、シンガポール出身の留学生が所属し、新しい分析技術を開発しています(図2)。誰かが問題を抱えている場合は、皆で協力して問題解決にあたります。欧米は研究者の流動性が高く、考え方の異なる人たちとの会話の中から思いもよらない画期的な解決策や新たな技術が生まれます。この記事を読んでくれている皆さんも将来ぜひ留学し、世界最先端の技術を開発してください。

図2 図2 留学先であるイリノイ大学の研究室のメンバーと(本人左端) Figure2:A photo of Prof. Yi Lu’s research group (leftmost).

technical term
DNAアプタマー これまでに水中の金属イオンのような小さなものから、細胞のような大きなものにまで結合するDNAアプタマーが発見されている。