特集02

大気再突入機の数値予測
Numerical Prediction of High Enthalpy Flow around Reentry Vehicle

宇宙の謎を持ち帰る再突入機開発 その一端を担うやりがいを感じます 機械宇宙工学部門
計算流体工学研究室 助教 高橋 裕介

[PROFILE]
○研究分野/高速流体力学・高温気体力学
○研究テーマ/柔軟構造飛翔体の空力・空力加熱解析、惑星大気再突入体の通信ブラックアウト予測ツールに関する研究、プラズマ風洞における高エンタルピー流解析
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/fluid/index.html

Yusuke Takahashi : Assistant Professor
Laboratory of Computational Fluid Mechanics
Division of Mechanical and Space Engineering

○Research field : High enthalpy flow
○Research theme : Aerodynamic and aerodynamic heating simulation of inflatable reentry vehicle, Numerical prediction of radio frequency blackout during atmospheric reentry, High enthalpy flow simulation of plasma wind tunnel
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/fluid/index_e.html

皆が注目した「はやぶさ」帰還
大気再突入をシミュレーション

 宇宙工学においてロケットは宇宙に行くための重要な乗り物ですが、同時に地球に帰ってくることも考える必要があります。そのために欠かせない乗り物が、私たちが研究する大気再突入機です。2010年6月13日に地球に帰ってきた「はやぶさサンプルリターンカプセル」は、大きな話題になりました。実はこの大気再突入は非常に危険なフェーズであり、いまだ分かってないこともたくさんあります。
 人工衛星が地球のまわりで「衛星」であるためには、秒速7km以上の速度を保たなければなりません。このような高い速度で大気に突入した再突入機は、空気抵抗を受けて減速し、その減速した分のエネルギーが熱に変換されることで機体は高温気体に包まれ、熱ダメージや通信途絶などの問題が生じます。
 そこで、JAXAとの共同研究に取り組む私たちのグループでは、コンピュータシミュレーションを用いて再突入機周辺の高速流体・高温気体の素性を明らかにし、再突入機の設計開発に活かせる知見を調べています(図1)。

図1
図1 再突入カプセル“ESA ARD”近傍の電子数密度 Figure1:Number density of electron around ESA ARD during atmospheric reentry.

新しい柔軟な発想で挑む
軽くて柔らかい再突入機

 従来使われてきた再突入機は「硬い」カプセル型のものでした。アポロ司令船などが、その代表的な例です。ところがいま、宇宙工学の世界では、まったく新しいコンセプトの再突入機が考え出されています。それは柔軟構造体と呼ばれ、宇宙において「柔らかい」膜を広げることで、高い高度からゆるやかに減速し再突入するというものです。従来の熱ダメージや通信途絶の問題が大きく低減されるメリットに期待が集まっています。
 しかし、柔らかいものには柔らかいなりの難しさがあり、再突入時における柔軟構造体のシミュレーションも大事な課題です(図2)。再突入時に機体がどのような高温気体に包まれるのか、あるいは柔らかい膜がどう変形し、どのような空気抵抗を受けるのか、スーパーコンピュータの計算により、いろいろなことが分かってきました。
 現在ロケットの開発や利用は目覚ましく進んでおり、その未来はおおいに注目されています。さらにその先、再突入機が広く使われる未来がきたときに、この研究が少しでも役立つことができればと考えています。

図2
図2 柔軟構造飛翔体近傍の流体の速度分布(左)、圧力分布・速度ベクトル(右) Figure2:Flow velocity and pressure distributions around inflatable reentry vehicle during atmospheric reentry.

technical term
大気再突入機 人工衛星や宇宙船の大気再突入機には非常に大きな減速と高熱対策が求められる。宇宙活動の活発化に伴い、再突入機の多様化も必要とされている。