特集05

安全で豊かな空間のための建築構造
Structure for safe and attractive buildings

建築構造の研究は、縁の下の力持ち 皆さんの暮らしの質を高める分野です 空間性能システム部門 建築構造性能学研究室 准教授 西村 康志郎

[PROFILE]
○研究分野/建築構造学
○研究テーマ/鉄筋コンクリート造建物の構造性能
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/nikou/

Koshiro Nishimura : Associate Professor
Laboratory of Structural Performance
Division of Human Environmental System
○Research field : Structural Engineering
○Research theme : Structural performance of reinforced concrete buildings
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/nikou/english/

人命と豊かな生活を守る
日本の建築技術に貢献

 私たちの身の回りには、マンションや商業施設などさまざまな鉄筋コンクリートの建物があります。もし1000年に一度の地震に襲われたら、これらの建物はどうなるでしょうか?そうした事態に備えるためにも構造担当の設計者には、人命の確保を最優先にした設計が求められています。とはいえ、豊かな生活空間を作るには、安全だけを考えて要塞のような建物を造るわけにはいきません。デザインなどのソフト面にも配慮してはじめて、利用者の高いニーズを満たすことができると言えます。
 建物の規模が大きくなると設計者も複数になり、デザイン、構造、設備など各自の役割に分かれています。設計者間の連携が大切になり、専門外の分野についても一定の知識が必要になります。我々、建築構造に関わる工学研究者はこれらの分野を幅広く学ぶことができ、多くの仲間が世界的にも優秀な日本の建築技術を支えています。

試験体や装置を皆で自作
理解度と面白さが二倍三倍に

 建物の倒壊を阻止するには、建物がどのように倒壊するかを想定する必要があります。壊れ方がわからなければ、その対処もできないのです。私たちの実験室では、自分たちで鉄筋コンクリートの試験体を作製し、力を加えて破壊させています(図1)。型枠にコンクリートを流し込むところから取り組むことで、実感とともに破壊の原因を詳しく解明することができます。コンクリートのなかの鉄筋を引き抜く実験(図2)では、梁が柱にジョイントする付け根の部分に着目し、鉄筋とコンクリートの付着について調べています。このときに用いる、地震時の力の流れを再現する模擬装置も自分たちで設計しており、これも実験の醍醐味の一つになっています。
 我々は、現時点では未解明である地震時の建物の挙動を解明して、社会に発信する役割も担っています。これらの新しい知見は、効率的な構造を実現するだけでなく、新しい魅力ある空間づくりにも応用できるはずです。建築構造の研究は、まさに縁の下の力持ち。人命を守る使命感と豊かな空間を実現する面白さを感じることのできる分野です。

図1 図1 柱梁接合部の部材実験。 Figure1:Loading test of beam-column joint specimen.

図2 図2 コンクリートの中の鉄筋を引き抜く要素実験。 Figure2:Pull-out test of deformed bars in concrete.

technical term
付着 構成される材料間の滑りに抵抗する性状で、建物で鉄筋とコンクリートの間の付着が失われると地震のエネルギーなどを吸収する能力が低減する。