特集03

小さな脆さを計る
Measurement of toughness with micron-size specimens

小さいものは大きいものと 脆さは強さとつながっています 材料科学部門 強度システム設計研究室 教授 三浦 誠司

[PROFILE]
○研究分野/材料強度学、状態図
○研究テーマ/軽量材料の組織制御と変形
○研究室ホームページ
 http://lms4-ms.eng.hokudai.ac.jp/japanese/homepage.html

Seiji Miura : Professor
Laboratory of Materials Strength Modeling
Division of Materials Science and Engineering
○Research field : Materials strengthening, Phase diagram
○Research theme : Microstructure and deformation of light weight materials
○Laboratory HP :
 http://lms4-ms.eng.hokudai.ac.jp/english

強くてしなやかな材料を
実現する小さな脆さに着目

 高強度金属材料の一例として、ジェットエンジンや発電用タービンに使われるタービンブレードを作るとしたら、燃料の爆発がもたらす高温環境に耐えられる材料が必要です。より高い温度で使える材料を探すと、その候補にはニオブという金属が浮かびました。その際、割れにくくて頑丈なニオブ単体を用いるのではなく、耐熱性にすぐれたニオブ-シリコン化合物を組み合わせることで、より強くてしなやかな耐熱材料を実現することができそうです。このように、用途に応じて複数の物質が組み合わされた材料の性質を知るには、各物質および、その接合面の性質を詳細に調べる必要があります。これを足がかりにして、大きな部品がどこからなぜ、どのように壊れてしまうかを理解することが、期待される材料の開発につながります。
 一般に、より強くてしなやかな耐熱材料の一部となるニオブ-シリコン化合物のような物質は、とても小さいものです。大抵が約1〜5ミクロンで、髪の毛の太さ(約100ミクロン)と比べてもはるかに小さいことがわかっていただけると思います。“そんな小さなものをポキッと割って、どれくらい割れやすいかをきちんと計りたい。”我々の研究室ではそう考えて、次に説明する実験に取り組んでいます。

顕微鏡で繰り広げられる
“押してポキッ”の破壊実験

 我々が行っているのは、顕微鏡で見る非常にミクロな世界の破壊実験です。まず、FIB(集束イオンビーム装置)で櫛の歯のように並んだ棒状の試料を作ります(図1、2)。棒の長さは15ミクロン、幅と高さはわずか3ミクロンです。次に、割れやすさを計るために棒の根元に意図的な切れ込みを入れます。ここまでの工程はすべて、加速したガリウムイオンで削り出す作業で行われます。そうしてできた棒の先端をナノインデンターを使ってゆっくり押していくと、切れ込みからポキッと割れるまでにかかる力は1ミリニュートン、1円玉の1/10を載せたくらいであることがわかりました。
 このように、小さな脆さを詳細に計る私たちの技術をさまざまな物質に応用していくことで、いつか宝物のように世界を明るくする材料が見出されるかもしれません。細かい細かい研究は、大きなものを作るのにも役立っているのです。

図1 図1 ミクロンサイズ破壊試験片と破壊試験の模式図。 Figure1:Schematic drawings of a micron-beam and toughness measurement.

図2 図2 走査型電子顕微鏡で観察したミクロンサイズ破壊試験片(#1-5)。 Figure2:Micron-beams (#1-5) observed by a scanning microscope.

technical term
ナノインデンター 超微小押し込み硬さ試験機。非常に微細な力で試料表面に圧子を押し込み、その深さと押し込み力を測定することで硬さや弾性定数などの物性値を求める。