特集01

金属疲労を防ぐために
To prevent metal fatigue

いつ壊れる? 破壊と研究者の根比べ
長年の研究が「形」を得つつあります 機械宇宙工学部門 材料機能工学研究室 教授 中村 孝

[PROFILE]
○研究分野/材料強度学
○研究テーマ/金属材料の超高サイクル疲労、超高真空中における疲労、宇宙空間における高分子材料の劣化機構、Cyclic press法を用いた金属表面のナノ微細化
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/MFM/

Takashi Nakamura : Professor
Laboratory of Mechanical and Functional Materials
Division of Mechanical and Space Engineering
○Research field : Strength and fracture of materials
○Research theme : Very high cycle fatigue properties of metallic materials, Fatigue mechanisms in ultra high vacuum environment, Degradation mechanisms of polymer materials in space environment, Nano-structural refinement of metal surface by using cyclic press method
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/MFM/

中から壊れる? 金属疲労
目視できない内部の破壊

 機械の破壊事故の7~8割は金属疲労に起因すると言われています。金属疲労とは、一回の大きな力ではなく、小さな力が繰り返し加わり続けることによって破壊に至る現象です。材料の表面に発生した亀裂は少しずつ進展するため、疲労亀裂を検出できれば、その後の破壊を未然に防止することができます。
 新幹線などの高速鉄道や航空機では、疲労亀裂の検出が重要な整備項目のひとつになっています。ところが近年、高強度鋼やチタン合金などの高強度金属材料では、疲労亀裂は表面ではなく材料の内部を起点として発生することがわかってきました。この内部起点型疲労破壊は、外部からの目視点検で見つけることができません。亀裂がいつ発生し、どのように進展するかがわからないので、内部起点型疲労破壊のメカニズムはほとんど明らかにされていません。

亀裂の詳細な撮影に成功
中から外に抜ける様子も

 我々は現在、金属内部に発生する数μm~数十μmのミクロな亀裂を検出するため、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設「SPring-8」を用いた研究を進めています。放射光とは電子などの荷電粒子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波の総称であり、SPring-8の放射光は通常のX線装置で発生できるX線の約1億倍の明るさがあります。材料内部に亀裂や欠陥があると、放射光の通り方はその周囲とは異なります。このわずかな違いを利用してCT撮影技術と組み合わせることにより、内部亀裂の検出を試みています。
 図1は試行錯誤の上に初めて撮影に成功したチタン合金内部の疲労亀裂です。試験片に適切な引張荷重を加えることで、30μm程度の亀裂をはっきりと撮影できることもわかりました。図2は疲労亀裂の広がり方を、負荷軸の方向から可視化した結果です。亀裂が材料の内部から発生し、外部に抜けていく様子が見られます。これらの測定を様々な条件で行うことにより、疲労亀裂の発生時期や進展速度などの情報を得ることができます。最先端の放射光μCT技術を疲労研究に応用することにより、近い将来、内部破壊の防止法や予測法の構築につなげたいと考えています。

図1 図1 1.325×107回の繰返し負荷を受けたTi-6Al-4V合金に観察された内部疲労亀裂(数字はCT撮影時に加えた引張荷重と疲労試験時の最大負荷に対する割合)。  Figure1:Subsurface fatigue crack observed in Ti-6Al-4V alloy cyclically loaded to 1.325×107 cycles. (Each number shows the tensile load at CT imaging and its ratio against maximum cyclic loading during fatigue test.)

図2 図2 Ti-6Al-4V合金における内部疲労亀裂の進展挙動。 Figure2:Growth behaviors of subsurface fatigue crack in Ti-6Al-4V.

technical term
SPring-8 国内外の産学官の研究者等に開かれた共同利用施設。
名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来している。