特集04

究極の性能を発揮する固体レーザー用結晶
Crystals for solid state lasers with ultimate performance

美しさと機能性が比例する単結晶 自在に育成できる達成感がやりがいに 物質化学部門 無機合成化学研究室 准教授 樋口 幹雄

[PROFILE]
○研究分野/無機合成化学
○研究テーマ/浮遊帯溶融法による光学用酸化物単結晶の育成
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/inorgsyn/index.html

Mikio Higuchi : Associate Professor
Laboratory of Inorganic Synthesis Chemistry
Division of Materials Chemistry
○Research field : Inorganic synthesis chemistry
○Research theme : Float zone growth of oxide single crystals for optical applications
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/inorgsyn/index.html

るつぼ不要で酸素分圧も自由
単結晶をつくる浮遊帯溶融法

 結晶あるいはガラスを増幅媒質として用いる固体レーザーは比較的小さな装置で大きな出力が得られることから、加工、医療、計測、身近な例ではグリーンのレーザーポインターなど様々な分野で利用されています。固体レーザー用の媒質材料としてはネオジムを添加したYAG(ヤグ)結晶がその代表格ですが、レーザーの性能に直結する分光学的特性は他の材料と比べてそれほど優れているわけではありません。一方、俗にバナデートとよばれる結晶は非常に優れた分光学的特性があるにも関わらず、るつぼを使った従来の育成法では再現性よく良質な単結晶を得ることができず、その利用はいまだ限られている現状です。
 そこで我々は、高価な貴金属製るつぼの消耗を防ぐために低い酸素分圧のもとでしかバナデート結晶を育成できない従来法から離れ、るつぼが不要である浮遊帯溶融(Floating Zone : FZ)法(図1)を適用してみました。ハロゲンランプから放出された光を一点に集中することで局部的な高温を作り出し、原料である多結晶体はその高温下の浮遊帯に近づくにつれ溶融し、溶融帯から離れることで目的の単結晶が生成されていく仕組みです。

図1 図1 浮遊帯溶融法による結晶成長の様子。ヘアドライヤー2台分くらいの出力で融点約1800℃の結晶を融かして凝固させることができる。 Figure1:Float zone growth of a single crystal. A crystal with a melting point of ~1800℃ can be fused and solidified by a comparable power of two hair dryers.

FZ育成のバナデート結晶は
究極ともいえる性能を発揮

 レーザー材料の性能を示す数値に、しきい値(レーザー発振が始まる時の結晶が吸収したエネルギー)とスロープ効率(結晶が吸収したエネルギーとレーザー光としての出力エネルギーの比)があります。酸素中で育成されたバナデート結晶(図2上)は、組成的にも光学的にもその均質性が極めて高く、しきい値はほぼゼロを示し、879nm(ナノメートル)で励起した場合、スロープ効率は78%という大きな値となりました(図2下)。理論的な効率が約82%であることを考慮すると、この性能は実際の材料として究極といってもいいものです。
 バナデート結晶はネオジムの他にも、ほぼすべての希土類イオンを活性イオンとして添加することができるため、目に安全な波長領域での高効率レーザー発振や、簡易かつ安価なシステムでのサブピコ秒領域の超短パルス発生の可能性を見出しています。今後これらの結晶が実用材料として花開くことを期待しています。

図2 図2 浮遊帯溶融法によって作製されたバナデート単結晶(上)とそのレーザー発振特性(下)。 Figure2:Vanadate single crystal grown by the floating zone method (top) and its lazing performance (bottom).

technical term
単結晶 どの部分を見ても原子・分子の並んでいる向きが同じである結晶。