特集02

パルスレーザー加振技術でシステムの動特性および
健全性を評価する
Dynamic characteristics evaluation and health monitoring of systems
using pulse laser excitation technology

今後の応用は「静」から「動」へ 動いているものの計測に挑みたい 人間機械システムデザイン部門 スマートメカニズム研究室 教授 梶原 逸朗

[PROFILE]
○研究分野/振動工学、制御工学
○研究テーマ/運動と振動の制御、スマート構造、レーザー応用技術
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/lsm/

Itsuro Kajiwara : Professor
Laboratory of Smart Mechanism
Division of Human Mechanical Systems and Design
○Research field : Mechanical vibration, Control engineering
○Research theme : Motion and vibration control, Smart structure,
Laser application technology
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/lsm/

触らずに振動を与える
高周波振動試験

 機械や構造物に損傷が生じると、音や振動に変化が現れます。この変化をモニタリングすることで損傷の状態がわかり、事故を未然に防止することができます。構造物の損傷がごく微小である場合、その振動特性の変化も微量であるため、わずかな振動特性の変化をも捉えることができる計測システムが求められています。
 そこで我々が取り組んでいるのは、高周波の振動実験です。高出力パルスレーザーを計測物へ照射することで生じる表面の蒸発(レーザーアブレーション)や、空気中の集光で発生するプラズマ(レーザーブレイクダウン)の衝撃波を通して計測物に振動を与える試験法の開発を行っています。これらの技術により、従来の“計測物を直接たたいて振動を起こす”ハンマリングとは異なる、非接触かつ高い周波数の振動試験が可能となり、さらに高精度なモニタリングシステムの構築を進めています。

図1
図1 膜構造の振動試験システム Figure1:Vibration testing system for membrane structure.

柔らかさ故に計測困難だった
膜構造のモニタリングも実現

 モニタリングシステムの一例として、膜構造のモニタリング技術を紹介します(図1)。膜は非常に軽く柔軟で、その特性を利用して建造物や航空宇宙システム、人工臓器など様々な分野において利用されています。膜構造の振動試験は、その柔軟さ故に非常に困難でしたが、我々が開発したレーザーによる振動試験技術により振動特性および振動形状の高精度計測が可能になりました(図2)。このような振動形状の変化をモニタリングすることにより、損傷位置をより精確に特定することが可能になります。
 レーザー加振による計測技術は、上記以外にも、MEMSや超精密位置決め機器など、微小な振動が影響する機械システムの動特性評価や、原子力施設の健全性評価など、人による作業が困難な領域への応用が期待されています。また、現在は計測物が静止している状態での振動試験が中心ですが、今後は回転機器の実稼働時計測も視野に入れ、振動モニタリングの可能性を広げていきたいと考えています。

図2
図2 損傷の有無による振動形状変化の比較 Figure2:Comparison of vibration mode shapes between normal and damage conditions.

technical term
振動試験 対象物に振動を与えることで表面変化や耐久性、
振動の伝達等の状態を測定・評価する試験。