自ら動き挑戦する工学者に

名和 豊春先生

産学連携の鍵は総合力。
北大工学研究院の大きなアドバンテージです。

PROFILE

工学研究院長・工学院長
名和 豊春

Professor Toyoharu Nawa,
Dean of the Faculty of Engineering

1954年4月11日北海道三笠市生まれ。77年北海道大学工学部建築工学科卒業後、80年同大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了。92年東京工業大学より博士(工学)取得。秩父セメント(株)中央研究所、秩父小野田(株)中央研究所、北海道大学大学院工学研究科助教授を経て、2004年教授に昇任。その後、工学部評議員、工学研究院副研究院長等を歴任し、14年4月より工学研究院長・工学院長・工学部長。

「好学」「向学」の素地を培い
社会が求める自立型工学者へ

─はじめに新入生へ一言お願いします。 名和 工学院の修士課程および博士後期課程に入学されました皆さま、おめでとうございます。工学研究院の教職員を代表して皆さまを心より歓迎いたします。大学時代は人生の中でもっとも自由な時間を享受でき、自分の可能性を無限に試すことができるかけがえのない期間です。勉学においても単位取得という必要最小限の枠組みにおさまらず、より能動的に自ら疑問をもって考え、行動する姿勢が、皆さんを飛躍的に成長させてくれることでしょう。こうした能動的な姿勢を持つことで“目の前の学問にますます興味がわいてくる”、私はこれを「好学」と名付けていますが、「好学」の醍醐味を知り、そこからまた次の“新しいことに立ち向かう意欲的な学び”、すなわち「向学」へとつながっていく。こうした「好学」「向学」の素地を身に付けた人材こそがやがては、社会が求めている自立型技術者、すなわち本当の工学者になると確信しています。人生に一度の大学時代です。北大生ならではのフロンティア精神で、高邁なる目標に向かって力強く前進していただきたいと願っています。

未踏の領域を切り拓く
工学の萌芽を育てる新機軸

─この4月から工学研究院長・工学院長に就任されました。今後の抱負をお聞かせください。 名和 技術革新、イノベーションという側面から考えますと、一つは従来の工学系専門分野の研究に一層注力し、進化かつ深化を目指す方向性は今後も変わらない我々の使命です。そしてもう一つは、従来、工学では取り扱わなかった未踏の領域に工学の萌芽を見出し、開花させていく試みも、非常に重要であると考えています。自分たちの研究範囲から視野を広げて、総合的・融合的な研究を進めていく。新たな工学の領域を切り拓く工学研究院・工学院にしていきたいです。一方で、これを実現するためには、学生の皆さんに物理や数理などの基礎学問をしっかりと培ってほしいということも、ぜひお伝えしたいと思います。学部時代に学んだ基礎を自由自在に応用できるようになってはじめて新たな未踏の領域に分け入ることが可能になります。基礎学問をおろそかにせず、確実に自分のものにしてください。

「水」「物質」「陽子線がん治療」
世界水準の最先端研究が進行中

名和 北海道大学の工学研究は、世界水準の最先端研究が幾つも同時進行しています。なかでも、21世紀の環境問題を考えるうえで重要な研究テーマの一つである「水」の分野では、本学の環境社会工学の研究者たちが目覚ましい成果を上げています。水中の有害な化学物質を取り除くことができる高効率な浄水処理技術の開発で、世界各地で求められている水環境の改善・発展に貢献しています。また、2010年のノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生の偉業が示すとおり、物質研究は北大工学がもっとも得意とする研究分野の一つです。今後はバイオ系にも応用が広がり、新たな領域が拡大されると期待されております。2014年に世界水準のリーダを育成する「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」が採択され、物質科学における新分野創成を目指す次世代人材の育成が開始しております。また、水素の原子核の“陽子”を真空中で一気に加速してできる“陽子線”を、体内で動いているがん組織に狙い撃ちできる治療技術を世界に先駆けて開発し、今まで不可能であった大型で動きのある肺がんや肝がんの治療を可能にする装置の開発など、新領域・革新的学問分野を構築しています。

札幌キャンパスに知が集結
総合力で躍進する産学連携

─名和先生はこれまで北大工学系の産学連携にご尽力されてきました。 工学研究院長・工学院長 馬場 直志 名和 産学連携に関して北海道大学は他に類を見ない、恵まれたアドバンテージがあると考えています。それは函館の水産学部を除き、札幌キャンパスに11の学部が集結している学際的な環境です。産学連携を実現するには、多彩な分野の技術を集めた総合力が必要不可欠です。現在、私自身も農学部と連携したプロジェクトに参加しており、大学としてもすでに医工連携の力で北大病院が建設を進める陽子線治療装置の実用化が進んでいます。今後も農業や食品、環境などの領域に工学研究者が積極的に提案していける技術開発が発展していくと考えています。

内向き志向を払拭する環境で
グローバル人材をサポート

─グローバル人材の育成をさらに進めるために工学研究院・工学院が取り組むべきことは何でしょうか? 名和 従来の「英語特別コースe3プログラム」(English Engineering Education program)をはじめ、工学系教育研究センター(CEED: Center for Engineering Education Development)の「海外インターンシップ派遣」や、学生受入れ(Short Stay)と学生派遣(Short Visit)を支援する「SS&SVプログラム」の活用は、今まで以上に活性化したいと考えているところです。グローバリゼーションというと、真っ先に海外に出ていくイメージを思い浮かべがちですが、内向的な日本人の特性を考えると、まず自分たちの身近に外国人留学生・研究者がいる環境づくりも非常に有効な方法の一つです。留学生たちは勉強中であろう日本語を使い、こちらもまだつたない英語でお互いにコミュニケーションを重ねていけば、いわゆる「内向き志向」も徐々に払拭され、海外に対する心理的ハードルが低くなります。近年はこちらに来る留学生もこちらから出て行く渡航組も双方増えており、特に渡航組が戻ってきてからの研究意欲は驚くほどの向上を見せています。また、北海道大学では2013年4月にグローバル人材を育成する「新渡戸カレッジ」を創設しました。新渡戸稲造先生は1899年に英文で『武士道』を発表されました。自分たちの文化を世界に伝えたいと願うその高い志を、本カレッジでもぜひ受け継いでほしいと期待しています。本学に多大なる功績を残されたクラーク博士は、有名な“Be ambitious.”の他にもう一つ、“Be gentle.”という言葉も残しています。野心と寛容、この二つのバランスを兼ね備えた国際的な感覚を持った人材が、ここ北海道大学から輩出されることを願ってやみません。

企業文化や学生の素養を理解した
教員の頼もしい就職アドバイス

─就職支援についてお聞かせください。 名和 工学院・工学部では2011年に「就職企画室」を立ち上げた他、約100社の企業が参加する「産業フォーラム」等を開催して毎年、手厚い就職支援を続けています。さらに、こうした活動と平行して特筆すべきことは、各教員の方々が非常に熱心に取り組んでおられる個別マッチングの存在です。北大の工学研究院は企業との共同研究が盛んですので、先生方の意識も非常に“外向き”です。「あの会社はこういう社風であり、人材育成についてはこう考えている」といった企業文化を理解しておられる先生方は、実に頼もしい就職アドバイザーでもあるといえるでしょう。学生一人一人の素質を踏まえて、その学生に合った就職アドバイスをしてきた各先生の実績が、今も揺るがぬ「就職に強い工学」を支えています。

人生の拠りどころとなる
大切な「何か」を探して

─最後に学生へのメッセージをお願いします。 名和 個人には必ず、その人にとって「自分の人生においてこれが大切だ」というものが必ず一つは存在します。学生の皆さんもぜひ、これからの大学院生活の中で自分自身と向き合い、その大切な「何か」を見つけてください。それは親友かもしれませんし、「これをずっと突きつめたい」という研究テーマかもしれません。私の場合、大学院時代に「あきらめない」気力体力が自分の中にあるとわかったことが、その後の研究生活をおおいに勇気づけてくれました。皆さんが人生の拠りどころと出会い、充実した日々を過ごせるように、工学研究院の教職員一同が応援しています。頑張ってください。

(2014年3月6日 インタビュー)