特集05

木質バイオマスは再生可能エネルギーの切り札になれるか
Is woody biomass an Ace or Joker in renewable energy world?

“身の丈”にあった賢い選択でまちの未来を暖める木質バイオマス 空間性能システム部門 建築環境学研究室 准教授 森 太郎

[PROFILE]
○研究分野/建築環境学
○研究テーマ/建築物の熱環境、光環境シミュレーション等
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kankyou/top/top.html

Taro Mori : Associate Professor
Laboratory of Building Environment
Division of Human Environmental System
○Research field : Building environment
○Research theme : Numerical simulation for thermal environment and daylight environment
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/kankyou/top/top.html

森の北海道で注目のエネルギー
木質バイオマスの可能性

 地球温暖化をはじめとする地球環境問題や東日本大震災後のエネルギー供給不安から、いま再生可能エネルギー、その中でも木質バイオマスが森林面積の多い北海道において注目されています。かつて木質バイオマスは暮らしの中心にあるエネルギー源でしたが、石油等に代わられたのはその発熱量の低さからが主な理由です。チセのように断熱性の低い建物では、火にあたっている部分は暖かくとも熱損失が大きいため連続的な熱投入が必要でした(図1)。ところが、近年の北海道の住宅は断熱性能が上がり、木質バイオマスを使用できる可能性が広がってきています。

図1 図1 チセでの宿泊風景とその際の熱画像 Figure1:Picture and thermo viewer of traditional house with woody biomass.

 北海道伊達市にある民間施設では木質ペレットボイラーの設置により、ヒートポンプを用いた給湯システムとペレットボイラーのハイブリット給湯の併用を実現しています(図2)。本研究室では、この施設に計画時から携わり、現在も夜間は安い電力を用いてお湯を作る一方、昼間はペレットボイラーを用いて給湯を行い、ピークカットを達成するシステムの運転方法を考案・実施しながら効果の測定を続けています。

図2 図2 道内民間施設のペレットボイラー、ヒートポンプハイブリット給湯システム Figure2:Hybrid water heating system with wood pellet boiler and CO2 Heat pump.

課題はマーケットの未成熟、
インフラ整備と自治体の本気

 木質バイオマスの利用については、現在二つの大きな課題があると思います。一つ目は木質バイオマスの成熟したマーケットが作られていないこと。例えば、薪やチップには含水率の高いものがあり、同じ燃料でも品質には差があります。ペレットの場合も木質部を用いたものとそうでないものがあり、これらが雑多に供給されている現状では正当な評価を受けられず、普及上の大きな問題点になっています。
 もう一つの課題は製造工場などのインフラ整備です。木質バイオマスは長距離輸送ではメリットが出ないため、各市町村による自主的な整備、維持、運営が必要です。昨今、木質バイオマスには様々な補助金がつき、種々多様なシステムが導入されていますが、他方、そのシステムを運用していく側にも十分な「気合い」があるかどうかは、重要な問いかけです。私が学生の頃、夕張は炭鉱閉山後にリゾート開発を手掛け、「まちづくり」の優等生でした。時代が変わり「リゾート開発」が「環境」に変わっただけとならないような、地域の将来像を見据えた選択が求められていると感じています。

technical term
チセ アイヌの住居。屋根、壁とも茅(かや)で葺く。内部の中央や入口寄りに炉を作る構造になっている。