特集02

水蒸気と水だけで洗浄する:
環境に優しい洗浄方法の開発
Steam-Water Cleaning:
low environmental impact cleaning

わからないから面白い 液体と気体が織りなす不思議を追いかけて 機械宇宙工学部門 流体力学研究室 教授 渡部 正夫

[PROFILE]
○研究分野/流体力学
○研究テーマ/液滴衝突のダイナミクス
○研究室ホームページ
 http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~info/

Masao Watanabe : Professor
Laboratory of Fluid Dynamics
Division of Mechanical and Space Engineering
○Research field : Fluid Dynamics
○Research theme : Droplet impact dynamics
○Laboratory HP :
 http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~info/index_e.html

何をどうやって洗うのか
複雑多岐な洗浄の仕組み

 洗浄は産業に欠かせないものであり、製品の品質を決める重要な工程です。汚れている製品を好む人はいないですし、また半導体やLEDなどの高精度デバイスの不良品発生を抑えるためには洗浄性能が大きく寄与します。
 身近な例として家庭の食器洗浄を考えてみましょう。家庭用食器類は実にさまざまな材料が使用されており、付着している除去対象物も多様です。付着物は油であったり、食べ残しであったり。洗浄するために使用する洗剤やスポンジなども多種にわたり、被洗浄物、付着物、洗浄手法を考えると無限に近い組み合わせとなり、洗浄というものがとても複雑なものであることがわかると思います。
 洗浄は大きく分類すると化学的もしくは物理的作用によって行われます。食器洗浄で例えると化学的作用は洗剤であり、物理的作用はスポンジです。化学的作用は対象物を溶かしたり、酸化させたり、結合力を落としたりと、非常に複雑です。物理的作用は除去したい汚れを、その汚れと洗浄面との結合力よりも大きな力を加えて取り除くという、手荒いがシンプルなものです。この物理的作用のみを利用して洗浄することが可能ならば薬液は不要となることが重要です。

図1
図1 フォトレジスト剥離の様子 Figure1:Cleaning process(Photoresist removal).

水蒸気&水混相で吹き飛ばす!
革新的な低環境負荷の洗浄法

 そこで、我々が着目したのは、二流体ジェットと呼ばれる代表的な物理洗浄です。これまで誰も試したことのなかった、純水と水蒸気を混合しノズルから高速噴射する全く新しい洗浄法が非常に優れた洗浄効果を持つことを発見し、そこからさらに、水蒸気・水混相噴流を用いた革新的洗浄法を開発することに成功しました。この洗浄法は、薬品を使用しない点で低環境負荷であることに最大の特徴があります。
 なぜ、この洗浄法が非常に優れた性能を持っているかは不明な部分が多く、我々は水液滴が水蒸気の中で動くときに水蒸気が水へと相変化する「凝縮」と呼ばれる物理過程が鍵であると考えています。廃棄物の無い超低環境負荷の洗浄技術の実現を目指し、本洗浄法のさらなる効率化と洗浄のメカニズム解明のための基礎研究を行っています。

図2
図2 ガラス(光学レンズ) Figure2:Glass(optical lenses)before and after cleaning.

technical term
二流体 物質の液体と気体を混合させた状態。