特集03

スーパークリーン・カーボン・テクノロジー
Superclean Carbon Technology

CO2削減に貢献する最善の近道!クリーン・カーボン・テクノロジー エネルギー・マテリアル融合領域研究センター エネルギー変換システム設計研究室 准教授 坪内 直人

[PROFILE]
○研究分野/有機資源化学、触媒変換化学、環境化学
○研究テーマ/クリーン・コール・テクノロジー、ボトムレス・リファイナリー、GTL (Gas To Liquid) プロセス
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/carem/

Naoto Tsubouchi : Associate Professor
Laboratory of Chemical Energy Conversion Systems
Center for Advanced Research of Energy and Materials
○Research field : Organic resources chemistry; Catalytic conversion chemistry; Environmental chemistry
○Research theme : Clean coal technology: Bottom-free oil refinery; Gas conversion technology
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/carem/

CO2削減は一日にして成らず
石炭をクリーンエネルギーに

 国際エネルギー機関の報告書によると、世界の一次エネルギーの約8割は石炭、石油、天然ガスで賄われており、この傾向は少なくとも今後30年間は変わらないと予想されています。したがって、環境負荷の要因であるCO2の排出量を抑制するには、限りある炭素資源を効率よく利用する技術「クリーン・カーボン・テクノロジー」の開発が非常に重要であると思われます。
 こうした視点から私たちの研究分野では、石炭、重質油、天然ガス等を、クリーン燃料や高価値化学原料に効率よく変換できるプロセスを支える基盤研究を進めています(図1)。ここでは、その中から石炭エネルギーに関わる例をいくつか紹介します。

図1 図1 CO2排出量を減らす近道~クリーン・カーボン・テクノロジー~ Figure1:Ultimately-efficient utilization of fossil fuels as the best way to reduce CO2 emissions.

石炭中窒素を無害化除去
新たな触媒不要の研究成果も

 石炭中の硫黄、窒素、塩素、フッ素は、燃焼すると環境汚染源となり、ガス化する場合も環境負荷の一因となります。私たちは石炭の加熱時に必ず起こる熱分解に着目し、石炭中窒素を無害な窒素(N2)として除去することを目的に研究を進めています。
 例えば、鉄鋼業等で排出される鉄酸廃液あるいは石灰水(Ca(OH)2)を石炭と混合すると、塩化鉄(FeCl3)水溶液や石灰水からFe3+やCa2+がイオン交換されます。これを加熱すると、金属鉄(α-Fe)や酸化カルシウム(CaO)の微粒子を生成し(図2)、酸性雨の原因となる石炭中の複素環窒素を無害な窒素に分解できることを発見しました。

図2 図2 脱揮発分後に生成される炭素質物質チャー上に高度に分散した鉄ナノ微粒子 Figure2:Iron nanoparticles highly dispersed on char after devolatilization.

 また、従来のボイラーと蒸気タービンで構成される石炭火力よりも大幅にCO2排出量削減が期待できる「石炭ガス化複合発電」の実現に向けて、我々は燃料ガス中に含まれる窒素を除去する研究にも力を入れています。発生した高温ガスを冷却してからクリーン化する工程を簡略化するため、高温下で窒素を除去する技術を開発中です。
 安価な原料から製造したナノ微粒子を用いて酸性雨の源のアンモニアとピリジンの分解除去法の開発に取り組んだところ、石炭の加熱によって生成した炭素質物質自体が高い触媒活性を発揮することを見出しました。この手法は、新たな触媒が不要であるという点が評価され、一連の研究努力は特許の取得という形で実を結んでいます。

technical term
クリーン・カーボン・テクノロジー  低CO2社会の実現に向けて化石資源を効率よく使うための技術。