特集04

過去と未来をつなぐコンクリート技術
Road to the Future with Concrete Technology

新しく作り出すことも歴史を守ることも。材料研究の奥深さを実感しています。 空間性能システム部門 空間システム分野 助教 福山 智子

[PROFILE]
○研究分野/建築材料学
○研究テーマ/鉄筋コンクリート構造物の耐久性
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/sanko/

Tomoko Fukuyama : Assistant Professor
Research Group of Building Science and Space Plannning
Division of Human Environmental Systems
○Research field : Building Materials
○Research theme : Durability of Reinforced Concrete Buildings
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/sanko/

コンクリートの中に穴が?
鉄筋腐食の原因を探る

 鉄筋コンクリート(以下、RC)は、多くの建物で使用されている非常に身近な建築材料です。これほどまでにRCが普及した理由には、鉄筋とコンクリートの組み合わせが力学的・化学的に優れている点が挙げられます。コンクリートは、押す力(圧縮力)への抵抗性が非常に高い材料ですが、引っ張る力に対しては弱く、すぐにひび割れてしまいます。このコンクリートの弱点を補っているのが鉄で、逆にコンクリートのアルカリ性が鉄に対して腐食させない環境をつくっています。コンクリート中に鉄を埋め込んで使うことにより、様々な点でバランスがとれた構造体を作ることができるのです。
 優れた性質をもつRCですが、環境により鉄が錆びてしまった場合には充分な力を発揮できなくなり、建物に問題が生じます。意外かもしれませんが、ミクロな視点で見るとコンクリートには穴(以下、空隙)がたくさん開いています。この空隙の中を透過する二酸化炭素や塩分などの影響で鉄筋が腐食することがあります。鉄の保護はRCにとって重大な問題です。しかし、コンクリートの空隙構造や、その中を移動する物質の振る舞いはすべてが解明されているわけではありません。私たちは、これらの現象を解明し、コンクリート内部の鉄筋の腐食を予防・発見するための研究を行っています。

世界遺産候補・軍艦島の復活に
寄与するコンクリート研究

 ユネスコ世界遺産の候補となっている軍艦島には、非常に古いコンクリート建物が数多く存在しています(図1)。

図1 図1 日本最古の鉄筋コンクリートでつくられたアパート(画像は全て長崎市の特別許可により撮影) Figure1:The oldest apartment house made of reinforced concrete in Japan.

 建物の一部には鉄筋の腐食などの劣化が生じており、このような場合にも、コンクリートの性質の把握が重要になってきます。海に囲まれた軍艦島の建物に、塩がどれだけ浸入して鉄筋を錆びさせるかを現状のデータをもとにシミュレートして予測します。今回は、コンクリートサンプルを採取して内部の空隙の大きさ・量を測定し(図2)、コンクリート内部にどれだけの有害物質が侵入しているかを分析しました。これらの情報をもとに、建物の保存方法を提案することになります。コンクリート研究は、新しい建物を建てるためだけのものではなく、既に存在する建物の保全にも大きくかかわっていくものなのです。

図2 図2 (a)コンクリートサンプルの採取
  (b)空隙と成分分析のためのコンクリートサンプル Figure2:Concrete sample collection using an electric drill.
The Concrete sample for porosity assessment and component analysis.

軍艦島の調査は、日本建築学会・軍艦島コンクリート構造物劣化調査ワーキンググループ(主査:野口貴文(東京大学))の活動の一貫として行われました。

technical term
軍艦島 長崎県長崎市の無人島。正式名称は端島(はしま)だが、外観が軍艦「土佐」に似ていることから軍艦島の呼び名が定着した。