特集05

札幌発のレアメタルとリサイクル
Indium - A rare metal produced in Sapporo and its recycling

資源リサイクルの合言葉は、明日のEarthのためにできること。 環境循環システム部門 資源再生工学研究室 教授 広吉 直樹

[PROFILE]
○研究分野/資源工学、選鉱・製錬工学、資源リサイクリング
○研究テーマ/天然鉱石・破棄物からの有価物回収
○研究室ホームページ
 http://mp-er.eng.hokudai.ac.jp/indexjp.htm

Naoki Hiroyoshi : Professor
Laboratory of Structural Analysis
Laboratory of Sustainable Resources Engineering
○Research field : Mining Engineering, Mineral Processing and Extractive Metallurgy, Resources Recycling
○Research theme : Recovery and extraction of valuable materials from natural ores and solid waste
○Laboratory HP :
 http://mp-er.eng.hokudai.ac.jp/index.htm

札幌の意外なトリビア!
元世界一のレアメタル生産地

 「レアメタルの生産なんて、札幌に住む我々には関係ない」と思っている読者諸氏は多いでしょう。でも、ほんの数年前まで、札幌が世界一の生産を誇ったレアメタルがあるのです。それはインジウム。定山渓温泉の近くにある豊羽鉱山(2006年操業休止)は、多量のインジウムを含んだ亜鉛鉱石を産出し、多いときには約120トン/年のインジウムを世に送り出してきました。当時のインジウム生産量は全世界で500トン/年に満たない程度。札幌発のインジウムがどれほど多かったのか、わかるでしょう。
 インジウムは、スマホやテレビの表示部として日常生活に欠かすことのできない液晶ディスプレーに利用されています。液晶ディスプレーは、液晶という物質を2枚のガラス板ではさみ込んだサンドイッチのような構造をしています。そして液晶と接するガラス板の表面には、電気と光の両方を通過させることのできる、厚さ100ナノメートル程度の特殊な電極(ITO透明電極)が取り付けられています(図1)。インジウムは、この電極の主成分なのです。

図1 図1 液晶ディスプレーに使われるガラス板の構造 Figure1:Structure of glass panel used in liquid crystal display.

そんなのリサイクルできないよ!
鉱山の技術を使って難題をクリア

 数年前、ある企業から「廃棄された液晶ディスプレーからインジウムをリサイクルする方法を共同で研究したい」との申し出がありました。インジウムを含むITO電極は簡単に酸に溶けます。また、この溶液からインジウムを回収することもすでに可能でした。この化学的なプロセスの効率を良くするため、事前にITO電極をディスプレーのガラス板から剥離したいとの要望でした。
 正直に言うと、はじめは「そんなの無理だよ!」と思いました。なにしろ、厚さ100ナノメートルしかない電極を、大きさも形も揃っていない廃棄物の表面から“お金をかけずに”剥がし取って下さいというリクエストです! それでも研究開始から半年ほど過ぎたころには突破口が開けました(図2)。ヒントになったのは、豊羽鉱山でも使われていた鉱石の粉砕技術です。リサイクルの研究・開発の世界では、古くから使われていた技術が思わぬ形でよみがえることがあります。技術それ自体もリサイクルできるということかもしれませんね!

図2 図2 液晶ディスプレーからのITO電極の剥離(左、剥離前 ; 右、剥離後)ITO電極がその直下にあるカラーフィルターと共にガラス板から剥離している。 Figure2:Removal of ITO electrode from glass panel of liquid crystal display (Left, before removal; Right; after removal).

technical term
豊羽鉱山 温泉街の定山渓にある豊羽鉱山は岩盤温度の高いことで知られ、閉山後も地熱発電の有望エリアとして調査研究が進んでいる。