特集03

半導体で量子計算?
Quantum computing with semiconductors?

現代物理学は常に更新されるもの。皆さんの力で次代を切り拓いてください。 応用物理学部門 半導体量子工学研究室 教授 武藤 俊一

[PROFILE]
○研究分野/応用物性、結晶工学、量子力学基礎論
○研究テーマ/半導体ナノ構造の作製・物性・応用、半導体量子情報処理
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/semi/

Shunichi Muto : Professor
Laboratory of Semiconductor quantum engineering
Division of Applied Physics
○Research field : Applications of physical properties, crystal engineering, basis of quantum mechanics
○Research theme : Fabrications/physics/applications of semiconductor nanostructures, semiconductor quantum informatics
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/semi/

光との相性がいい半導体
太陽光発電への応用も盛ん

 私の使っているレアメタルは、ガリウムやインジウム。なかでも化合物半導体の一種である窒化ガリウムGaNの窒素Nを、砒素Asで置き換えた砒化ガリウムGaAsとその仲間、特にガリウムGaをインジウムInやアルミニウムAlで置き換えたものを取り扱っています。砒化ガリウムの開発は窒化ガリウムよりも古く、半導体レーザーもこの材料から始まりました。半世紀も前(1962年)のことです。
 半導体というとシリコンSiを思い浮かべる人が多いと思います。たしかに今のLSI技術の中心はSiですが、Siは光との相性が良くないという欠点を持ちます。これに対し窒化ガリウムなどは白色LEDやレーザーに使えるほど光との相性が良いものです。
 私の研究室では分子線エピタキシー装置という超高真空の装置に半導体の板を置き、そこにGaやInの材料を分子の形で降り注ぎ、砒化インジウムInAsのナノメータ(nm)レベルのドット(量子ドット)を作っています。量子ドットは、中に電子を閉じ込めることができるので、光との相性が更に良くなります。実際、これを高効率の太陽光発電に応用することも盛んに研究されています。

量子の重ね合わせで量子計算
量子の〈永年の謎〉に挑戦

 現在、私の関心は「量子計算」の応用へと向かっています。量子計算では従来のコンピューターと異なり、「0」と「1」の二択ではなく、それらの重ね合わせ状態を同時に扱えるので超並列計算が可能になり、未来の情報処理技術として期待されています。私の研究室でもかつての大学院生が提案した量子計算を実現するための基礎研究をしています。ナノレベルで近接した量子ドットを作り、これに光を当てて電子を制御することにより電子の重ね合わせを制御するという極めてエレガントな手法です(図1)。

図1 図1 量子ドットを使った量子計算の原理 Figure1:Principle of quantum computation using quantum dots.

 このような量子の世界を記述するシュレディンガー方程式(図2)によれば、重ね合わせを観測すると、信じ難いことですが、世界が枝分かれすることになります(観測の多世界解釈といいます)。これを確認するために量子計算を作ろうとしている人もいるそうです。ゆくゆくは私達の研究がこういう基礎科学にも貢献できれば幸いです。

図2 図2 シュレディンガーの猫 Figure2:Schrödinger’s cat.

technical term
シュレディンガー方程式 波の性質を持つ電子のふるまいを記述する方程式。