特集01

レアメタルの製造
Preparation of rare metals

消費社会の日本に潜む〈資源〉に着目。不要なものから有価な材料を生む技術。材料科学部門エコプロセス工学研究室 教授 鈴木 亮輔

[PROFILE]
○研究分野/金属酸化物の還元プロセスと高温熱力学、熱伝達と熱電変換システム
○研究テーマ/CO2の完全消滅、太陽熱による直流発電システム
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/ecopro/

Ryosuke O. Suzuki : Professor
Laboratory of Eco-Processing
Division of Materials Science and Engineering
○Research field : Reduction of metallic oxides, Thermoelectric conversion
○Research theme :Complete decomposition of CO2 gas; Power generation by solar heat
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/ecopro/

陸海空で大活躍のバナジウム
燃焼施設が出す煤煙から回収

 我々の研究室で取り扱っているバナジウム(元素記号V)は、典型的なレアメタルです。自然界に存在する純金属で唯一、室温付近で水素吸蔵特性を持ち、低温では超伝導体になって電気抵抗がゼロになります。ジェット機や鉄道、石油パイプラインなどさまざまな場面で用いられ、化学プラントでは触媒にもなるという大活躍のレアメタルです(図1)。

図1 図1 バナジウム金属 Figure1: Vanadium metal

ほんの少しの添加で鉄の特性を大きく変えてしまうこのバナジウムは、一体どのようにしてつくられるのでしょうか。
 バナジウムを含む鉱石はそもそも存在せず、現状では石油プラントや石炭火力発電所など石油石炭を燃焼する施設の煙突から煤煙を集め、ススの中に濃化しているバナジウムを酸化物として回収しています。ところが、このスス(炭素)を還元剤として酸化物を還元して金属バナジウムを製造することは残念ながらできません。よって、バナジウムの酸化物は、炭素より酸素と親和力が強いアルミニウムで還元されます。アルミニウムのテルミット反応は自身の反応に必要な高温を自らが生み出すありがたい反応で、さらに高温になった反応後は自身が高温溶融して、金属バナジウムの液体となります。

飲料アルミ缶がもうひと働き
超高純度金属への挑戦は続く

 この反応に必要なアルミニウムとして新地金を用いるのはあまりにもったいないことから、スクラップアルミ、すなわち回収された飲料アルミ缶が用いられています。反応生成物の酸化アルミニウムAl2O3はスラグ(液体酸化物)として金属液体の上部に浮上するので、製品であるバナジウムを包み込んで酸素を遮断するという便利な働きをしてくれます(図2)。また、反応終了後に冷却されると岩石のような固体となって回収され、純度が高い場合は耐火物原料アルミナ、すなわち工業原料として再利用されます。しかし、酸素を大量に含有した高温液体金属はそのままでは脆く、床に落としただけで砕け散るという寂しい特性が見られます。
 そこで、私の研究室では溶融塩を用いてバナジウムから酸素を容易に除去する新しいプロセスを開発しました。超高真空のもとで電子線を照射して1600℃の高温として粗バナジウムを溶解し酸素を取り除き、超高純度の金属にする技術開発も今、進んでいます。

図2 図2 酸素は魅力的なものに高熱と共に移ります Figure2:Oxygen will accompany with the attractive matter.

資料提供:吉永英雄氏(太陽鉱工 赤穂研究所所長)

technical term
アルミニウムの
テルミット反応
化学反応式は3V2O5+10Al=6V+5Al2O3  Vに付いていた酸素が相手を変えてアルミと組むだけの反応だが、極めて大きな発熱が得られる。