細胞イメージングを駆使して細胞と対話する
Direct observation of cellular behavior by live cell imaging
[PROFILE]
○研究分野/細胞生物学、生物物理学
○研究テーマ/細胞ダイナミクス、脂肪細胞、培養細胞イメージング
○研究室ホームページ
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/BioPhysics/
Masafumi Nagayama : Assistant Professor
Laboratory of Biophysics
Division of Applied Physics
○Research field : Cell Biology, Biophysics
○Research theme : Cellular Dynamics, Adipocytes(Fat Cells), Live Cell Imaging
○Laboratory HP :
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/BioPhysics/
太る・痩せる・メタボる
カギは脂肪細胞のふるまい
ここ10年ほどで「メタボリックシンドローム」が大きな社会問題としてマスコミに取り上げられるようになったため、老若男女を問わず、誰しも体重やウエストそして体脂肪率を気にした経験があると思います。ヒトを含む哺乳動物の体内で脂肪の貯蔵を担っているのは、「脂肪細胞」と呼ばれる細胞です(図1)。この脂肪細胞は、脂肪を貯えたり放出したりすることで細胞そのものが太ったり痩せたりするだけではなく、脂肪の貯蔵量に応じて様々なホルモンを分泌することで、生体のエネルギーバランスを積極的に調整しています。そのため、脂肪細胞の過度な肥大、即ち肥満によって脂肪細胞が機能不全に陥ると、メタボリックシンドロームへとつながるのです。
このような脂肪細胞の持つ多彩な機能を理解するため、従来の研究では細胞を構成する部品(遺伝子やタンパク質)の働きばかりが注目されてきました。これに対し、私たちは細胞培養および細胞イメージングといった工学的なテクニックを駆使することで、脂肪細胞の「ふるまい」に注目した研究を展開しています。
細胞のふるまいに潜む
生命現象の本質に迫る
通常、細胞は温度と湿度がコントロールされた培養器(密室)で培養されるため、時々刻々と変化する細胞のふるまいを観察することができません。そこで、顕微鏡のステージ上で長期間の細胞培養が可能なシステムを構築し、脂肪細胞が太っていく過程(図2)および脂肪分解ホルモンで刺激した脂肪細胞が痩せていく過程を動画として撮影することに世界で初めて成功しました。その結果、太る過程ではほぼ全ての細胞が数日間にわたって脂肪を貯え続けるのに対し、痩せる過程では一部の細胞だけがごく短時間(数時間)しか脂肪を放出しないことが明らかになりました。さらには、過度に肥大した脂肪細胞を取り囲むようにマクロファージと呼ばれる免疫細胞が集積してくる様子が観察され、脂肪細胞の機能不全ひいてはメタボリックシンドロームの発症に深くかかわる重要な知見を得ることができました。
生命の最小単位である細胞のふるまいを直接観ることで、複雑な生命現象の背後に潜む美しくかつ巧妙に制御された物理法則の解明に迫ることが期待されます。
マクロファージ | 白血球の一種であり、死んだ細胞を処理するはたらきを持つ。マクロファージが過剰にはたらき続けると、メタボへとつながる。 |