特集03

機械工学の視点から新しい骨機能診断を目指す
Novel bone diagnosis based on mechanical engineering

産学官で挑む次世代自動車の空力開発。スパコンによる大きな転換期が到来。 機械宇宙工学部門 計算流体工学研究室 准教授 坪倉 誠

[PROFILE]
○研究分野/バイオメカニクス、医療福祉工学
○研究テーマ/生体骨のマイクロ・ナノメカニクス、生体関節の力学的機能評価
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/biomech/

Masahiro Todoh : Associate Professor
Laboratory of Biomechanical Design
Division of Human Mechanical Systems and Design
○Research field : Biomechanics, Biomedical and Rehabilitation Engineering
○Research theme : Micro-Nano Mechanics on Bone Tissue, Mechanical Evaluation of Biological Joint
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/biomech/?page_id=7

理想的な力学特性を実現する
「骨」の巧妙なデザイン

 近年の高齢化社会の到来により、骨折や骨疾患などによる運動機能障害が重大な問題となっています。現在、レントゲン装置やX線CT装置といったX線吸収特性によって骨密度を測定し、骨強度を推定・診断する手法が広く普及してきました。図1のように、微視的には骨は無機成分のアパタイト結晶と有機成分のコラーゲン分子からなる複合構造をとっています。特に、剛性・強度の高いアパタイト結晶は骨密度と密接な関係があり、従来の骨強度推定法の根拠となっています。
 しかし、近年、加齢や骨粗しょう症、糖尿病などにおいて骨コラーゲンの異常によるマイクロダメージ発生や骨強度低下がみられ、微視構造に関わる「骨質」の重要性が指摘されています。このように骨の微視構造が、からだを支える十分な強度と衝撃・変形に耐える十分なしなやかさの両立に重要な役割を果たしていると考えられますが、その複雑さかつ微細さゆえに、未だそのメカニズムは明らかにされていません。

図1 図1 骨組織の微視複合構造 Figure 1 : Composite structure of apatite and collagen in bone.

最新の計測技術で
骨の機能を診る

 そこで我々が取り組んでいる骨機能診断への導入を目指した2つの解析手法について紹介します。1つはX線回折による骨複合構造の力学解析で、骨組織に強い放射光を照射することでアパタイト結晶ならびにコラーゲン分子の両方の構造情報を含む回折光が同時に得られます(図2(左))。この情報から外的負荷に対する両者のふるまいを可視化し、骨アパタイト結晶およびコラーゲン分子の力学的役割の解明に取り組んでいます。もう一つは、ラマン分光法による骨構造解析で、レーザー照射によって発生する散乱光特性(ラマンスペクトル)から物性情報を取得する手法です。この手法でも、アパタイト結晶とコラーゲン分子の情報が同時に得られ、例えば図2(右)のように、外側からはわかりにくい年齢による微視構造の違いをはっきりと見ることが可能となります。最近の研究成果では、ラマンスペクトルは力学状態の情報も含んでいることが確認され、骨の構造特性のみならず力学特性を可視化することで、骨の機能を診断する新しい評価手法の開発にチャレンジしています。

図2 図2 骨のX線回折実験とラマン分光イメージ Figure 2 : Synchrotron experiment for bone mechanical analsysis(left) and Raman images of different aged bone(right).

technical term
アパタイト結晶 骨や歯を構成している無機主成分。
リン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイト。