特集02

細胞の世界を機械工学が切り拓く
Frontier of cell microworld by applying mechanical engineering

未来を知る「予測」は人類の夢。精度の高い予測が人名を救う。 環境フィールド工学部門 河川流域工学研究室 准教授 山田 朋人

[PROFILE]
○研究分野/バイオメカニクス、バイオMEMS
○研究テーマ/細胞の力学応答機構の解明、バイオMEMS技術による細胞計測デバイスの開発
○研究室ホームページ
 http://mech-hm.eng.hokudai.ac.jp/~micro-nano/index.htm

Toshiro Ohashi : Professor
Laboratory of Micro and Nanomechanics
Division of Human Mechanical Systems and Design
○Research field : Biomechanics, BioMEMS
○Research theme : Study of mechanical responses of living cells,
 Development of cell measurement devices by bioMEMS technologies
○Laboratory HP :
 http://mech-hm.eng.hokudai.ac.jp/~micro-nano/index_en.htm

細胞の構造・機能を
機械工学的に調べる

 私たちのからだには重力をはじめとする様々な力が常に加わっています。これらの力の理解には機械工学の基礎である材料力学や流体力学の知識が役立ちます。細胞が力学刺激に対して構造や機能をどのように調節しているのかを調べることは、生命現象へのより深い理解に繋がります。例えば、膝関節を考えてみると、運動時には静止時の重力に加えて圧縮や捻りなど複雑な力が生じています(図1(a))。軟骨の細胞は常にこれらの力学刺激に曝されながら軟骨組織を維持し続けているのです。この研究の一例として我々は、マイクロピペット吸引法を用いて細胞の硬さを調べています(図1(b))。内径が数µm程度のガラスのマイクロピペットで細胞の表面を吸引することで細胞の硬さがわかります。
 このように私たちのからだを機械工学的に扱う学問領域を『バイオメカニクス』と呼び、近年、世界中で研究が活発になってきています。さらに、細胞レベルの応答が病気の発生に密接に関係することから、医療分野への貢献も期待されています。

図1
図1 (a)膝関節に生じる『力』、(b)軟骨細胞のピペット吸引試験 Figure 1 : (a)Forces acting on articular joint, (b)Pipette aspiration on cartilage cells.

MEMS技術により高機能な
細胞計測デバイスを開発する

 また近年では、機械工学分野の新技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を細胞バイオメカニクスの研究に役立てることもでき、我々の研究室ではバイオMEMSに着目しています。例えば、MEMS技術を用いて作製したシリコンとガラスで構成されたマイクロウェル内(1辺が数百µm程度)に細胞を培養することにより(図2(a))、このマイクロウェルスライドにマイクロフルイディクス技術(微小流路技術)を組み合わせて、流れに対する細胞の応答性を高効率に観察することができます(図2(b))。さらに、細胞の試薬に対する応答性試験として極少量の試薬で試験を行うことにより、腫瘍細胞診断など貴重な細胞試料と高価な試薬の使用量を大幅に抑制することができます。
 以上のように、MEMS技術の利用により、cm空間からµm空間へ観察空間をダウンスケールすることが可能になり、より高精度・高効率な細胞試験技術の確立が期待されています。

図1 全球気候モデルの概要
図2 (a)マイクロウェルスライドと細胞培養、(b)流れ負荷刺激 Figure 2 : (a)Microwell slide and cell culture, (b)Flow-imposed test.

technical term
バイオMEMS 半導体製造など、多くは機械・電子分野に応用されてきたMEMS技術をバイオに転用し、生命現象解明の糸口とする研究分野。