特集3 ー理想のエンジニア像を探してー

卒業生

谷口 敦史

株式会社日立製作所
生産技術研究所 検査システム研究部
第1研究ユニット

谷口 敦史 Atsushi Taniguchi

◎出身地/北海道札幌市
◎量子物理工学専攻 博士後期課程修了

武田 清賢

北海道ガス株式会社
技術開発研究所 技術開発グループ
家庭用コージェネレーション 開発チーム

武田 清賢 Kiyotaka Takeda

◎出身地/北海道札幌市
◎機械科学専攻 修士課程修了

旭 一岳

一般財団法人 北海道河川財団
企画部

旭 一岳 Kazutake Asahi

◎出身地/石川県加賀市
◎環境資源工学専攻 修士課程修了

大学院生

大野 敦史

応用物理学専攻
量子機能工学研究室
修士課程2年

大野 敦史 Atsushi Ohno

◎出身地/北海道小樽市
◎4月から希望通りの携帯電話業界で入社予定。

門脇 主将

エネルギー環境システム専攻
エネルギー変換システム研究室
修士課程1年

門脇 主将 Kazumasa Kadowaki

◎出身地/宮城県多賀城市
◎燃料電池関連の研究に従事。自動車業界を目指す。

和田 卓也

環境フィールド工学専攻
河川・流域工学研究室
修士課程1年

和田 卓也 Takuya Wada

◎出身地/新潟県新潟市
◎社会に役立つ仕事を目指して就職活動中。

3×3の「はじめまして」
後輩が用意してきた質問とは?

大野 今日は3人の先輩をお迎えして私たち大学院生からの質問にお答えいただけるこの場を楽しみにしてきました。私の研究分野は超短光パルスレーザーを用いた物性特定です。将来は日本の技術を世界にアピールできるような開発を目標にしています。
門脇 私の研究は燃料電池内の生成水移動現象に及ぼすマイクロポーラスレイヤーの影響の解明です。この席に同じエネルギー変換システム研究室出身の武田さんがいらっしゃるので詳しくお話を聞きたいです。
和田 私も質問を用意してきました。今取り組んでいる研究内容は、近年の地球温暖化やヒートアイランド現象に伴い降雨特性がどう変化していくのか、です。
 私も在学中、和田さんと同じ分野で学びました。現在は気候変化や治水・利水に関連する業務、河川解析ソフトウェアの企画運営などをおこなっています。
武田 私の場合、在学中から研究テーマは一貫して燃料電池。今の会社でも家庭用燃料電池「エネファーム」の開発を担当し、今年の販売開始に向けた詰めの取り組み中です。
谷口 私が今の会社を志望した理由も、博士後期課程修了まで続けた光学研究を生かせる職場だったから。光の散乱を用いた半導体ウェハの欠陥検査技術を研究しています。

研究の流れは企業も同じ
自分の軸と友達づくりのすすめ

大野 では早速、先輩たちにうかがいます。皆さん、大学院での研究内容が引き続き生かせるような仕事に就かれていますが、学術的なこと以外に「今の仕事で役立っていること」はありますか?
谷口 私の感触では大学院時代の経験は「全般に渡って役立っている」気がします。研究の初めに理論を立てシミュレーションで試し、本番の実証データを取ったらそれを分析して論文にする。この一連の流れは大学でも企業でも同じ。細かな内容やスパンの違いはあっても、研究開発の基本が理解できていることの利点はとても大きいと思います。
武田 同感です。他に挙げると、学会などの論文発表の経験も大いに役立ってきます。企業で物事を進めていく際には、自分のやっていることを他の人にアピールする場面が必ず出てきます。論文発表の基礎が身に付いていれば、社内での発言もさらに磨きをかけていけるようになります。
 私が皆さんにおすすめしたいのは、学生時代に自分なりの"視点の軸"を作っておくこと。社会にはいろんな視点を持つ人が大勢います。違う角度から物事を見ることが要求されたときに自分の軸があると応用がきく指針になります。
大野 ありがとうございました。
和田 次の質問に移らせていただきます。研究のことはいったん脇に置いて、「学生のうちにやっておいたほうがいいこと」はあるでしょうか?
 友達づくり、かな。自分が所属していた野球サークルの仲間のようになんでも気さくに話せる友人を作ることができるのは、学生の特権。社会人になると親しくなるまでに少し遠慮などが入りますから、皆さん、今のうちにどんどん友達を増やしていってください。
谷口 社内に同じ大学出身の人がいたりすると自然と親近感がわきますよね。
武田 わかります。私の場合、最初の勤め先が本州だったので北海道出身者同士でよく集まっていました。何かと宴会が多い4月、5月にさみしい思いをしなくてすみました(笑)。心強かったですね。

各役割の人材が集い、
工学的なものづくりが実現

座談
座談

門脇 「社会人になって良かったこと」を教えてください。
谷口 私は博士後期課程を修了したとき27歳になっていたので、周りの友人たちはすでに会社員で給与をもらっていました。ですから、光学研究というやりたいことを続けられて会社員の待遇が手に入ったときはやっぱり嬉しかったですね。
門脇 初任給で何か大きな買い物をされたんですか?
谷口 2週間ほど休んで海外旅行に行きました。もちろんこういう待遇面の話ばかりでなく(笑)、企業にいるといろいろな人との関わりが出来てきて「世の中のために働いている」という実感が得やすくなります。
 おっしゃる通りですね。大学では限られた分野の人との会話が多くなりますが、企業ではお客さんをはじめ、社内でも経営・企画・開発・営業などさまざまな視点を持った方々と接する機会がありますので、研究と世の中の接点を見つけやすくなるかもしれませんね。
武田 研究者がいて実際の製品として形にする開発者・設計者がいて、それを作る人、売る人、メンテナンスする人がいる。これら全ての人材が揃ってはじめて工学的なものづくりが完成します。こういう集合体の一員になれることは、学生時代との大きな違いだと思います。
谷口 私の部署は10人ですが、商品化する事業部では100人近くが働いています。
武田 家庭用燃料電池の開発も寒冷地対策のためにメーカーさんの開発チームと密な連絡を取りながらやっています。自分だけが頑張ってもダメ。他の人に協力してもらいながら目的を達成していくところが大変であり、同時にやりがいを感じるところでもあるのです。

就職、起業、転職
キャリアの重ね方は人それぞれ

座談

谷口 次は私から院生の皆さんに質問をしてもいいでしょうか。就職活動では「何を重視して」企業を見ますか? 大野さんは今年4月から採用が決まっているそうですね。
大野 はい、私の場合は「やりたいこと=携帯電話の開発」を優先して就職活動をしていました。大学院での研究とは直結していない分野ですが、今世界レベルで遅れが指摘されている携帯電話の開発で日本の技術の高さを見せられるように頑張ります。
和田 私は旭さんのお言葉を借りるとまだ「軸」づくりの段階。世の中に役立つインフラ業界も気になったりして模索中です。
門脇 私は自動車業界志望ですが、データ面では企業の安定性をはかるために経常利益率も参考にしています。
 ちなみに私の例でいうと、「技術者は専門性に加えて、人に伝える技術を磨くことが重要」と思い、広告/マーケティング業界に転職し、伝えるスキルを学んでから今の職場に入ったという経緯があります。起業をしたりあるいは前向きな転職をしたりと、人それぞれのキャリアの重ね方もあると思います。

商品化や報告書を通じて
社会とつながる喜びを実感

大野 「仕事を続けていくためのモチベーション」は何ですか?
谷口 自分が関わったものが社会に出る、というわかりやすい喜びもあると思うし、目の前の課題が一つずつ解決していく小さな喜びもある。企業では自分だけの計画ではなく「みんなの計画」になるので周囲からモチベーションをもらうこともあります。
 インフラ業界だと国の事業の一環として仕事が発生するので、自分が関わった業務成果が、世の中に公開されたり、その後の事業展開の基点にされるものとなったりするとモチベーションは上がりますね。
武田 あと単純な話かもしれませんが、人から「ありがとう」と言われることもモチベーションアップにつながりますね。入社して間もないときはまだ人から感謝されたり、研究が商品化される段階ではないかもしれませんが、そこは新人の頑張りどころ。せっかくいい研究をしていても、途中で立ち止まってはその成果が世に出なくなりますから。しっかり仕事を回して、世の中とのつながりを持ち続けてほしいです。

学生時代の経験を土台に
入社のスタートラインに立つ

図1

 皆さんが働くことに不安をお持ちなのはよくわかります。考えを整理するフレームとして「やりたいこと」をWANTとすると、「できること」はCAN、「しなければならないこと」はMUST 。この3つの円がどう重なっているかを図解(図1)してみるという方法もあります。
谷口 社会に出るとMUSTは増えます。でも理想のエンジニアはそれをこなしながら、自分のやりたいことを貫いて周囲の人間を引っ張っていける人材。その準備のためにも、学生のうちに自分のやりたいことをやり通す経験をしてください。
武田 現状の仕事と理想にギャップがあるときは、やりたいことに近づけるよう自分から周囲にアピールすることも大事です。
門脇 今日は先輩がたのお話をうかがい、研究への意欲がまた新たにわいてきました。
和田 入社はゴールではなく、スタートなんですね。皆さんの後をしっかり追いかけていきたいです。


集合写真