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原子力発電所を地震から守る!

松浦教授・大野准教授授

とって代わるものがない原子力エネルギー時代。
材料の寿命や疲労を見極め、揺るがぬ安心稼動の実現へ。

材料科学部門
組織制御学研究室

教授 松浦 清隆 Kiyotaka Matsuura(左)
准教授 大野 宗一 Munekazu Ohno(右)
[PROFILE]
◎研究分野/金属組織学、計算材料科学
◎研究テーマ/凝固・相変態、粉末焼結、
塑性加工などにおける金属組織の制御と設計
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MSESC/

原発配管材料の寿命を予測し
地震国日本の原発建設に貢献

 現在、日本の電力の約3割が原子力発電所(原発)から供給されていますが、炭酸ガス排出削減のため原発への依存は今後ますます増えると予測されます。地震国日本では原発建設にあたり、またその後の長い年月にわたる運転中の管理に対しても、細心の注意と高度の技術が傾けられています。また、原発の設計・施工・管理ともに大変優れているので、大きな地震が起きてもそれで原発が壊れるようなことはありません。
 しかし、どこかの部分で肉眼では見えないミクロな損傷が発生して、その後の使用可能年数(寿命)に影響を与えないとも限りません。そのため、私たちは地震動を受けた原発配管材料(図1)があと何年使っても大丈夫かを予測する研究をしています。

図1 原発の配管設備
図1 原発の配管設備

壊れるまで揺らして
金属材料の疲労を追跡

 金属材料は使っている間に疲れて壊れることがあります(金属疲労現象)。地震の揺れの代わりに、図2のような試験片に引張と圧縮の荷重を繰り返し加えて壊れるまで疲労試験をし、材料内部に微小な疲れ(原子のひずみ)が蓄積する過程や表面に微小な傷が発生する様子を観察しました。結晶内部の原子のひずみは外から直接観ることはできませんが、私たちはX線回折を用いて、初期状態から材料が疲労して破壊するまでのひずみ量の変化を数値化することができました。金属結晶は疲労とともに格子欠陥が生じ、ひずみの量が増えます。この様子をX線回折ピークの幅(FWHM)の変化として出力すると、図3に示すように荷重繰り返し回数が増えるにつれてFWHM値は徐々に増加し、やがて試験片は破壊しました。また、破壊のかなり前の時点から試験片表面に図4に示すような微小な亀裂が見え始めました。まだ調査途中ですので詳細なメカニズムは不明ですが、このような曲線と電子顕微鏡による微細組織変化の観察とを組み合わせると、試験片表面に亀裂ができ始めるまでや破壊するまでの繰り返し回数が予測できるようになると私たちは考えています。

図2 疲労試験片
図2 疲労試験片
図3 荷重繰り返し回数とFWHMの関係
図3 荷重繰り返し回数とFWHMの関係
図4 疲労試験片表面に現れた微小亀裂
図4 疲労試験片表面に現れた微小亀裂

technical term
格子欠陥 則的な格子状原子配列を持つ金属結晶に生じる原子配列の乱れのこと。