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原子力機器・設備の耐震性を支える材料強度研究

中村教授・小熊助教授

原子力施設を下支えする、基盤技術に見出す使命。
試験機開発も自分たちで。若手の活躍に期待します。

機械宇宙工学部門
材料機能工学研究室

教授 中村 孝 Takashi Nakamura(右)
助教 小熊 博幸 Hiroyuki Oguma(左)
[PROFILE]
◎研究分野/材料強度学、材料工学
◎研究テーマ/金属材料の超高サイクル疲労特性、超高真空における疲労機構
宇宙環境における高分子材料の劣化機構、複合材料の環境強度、材料試験システムの開発
◎研究室ホームページ/http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~material/

中越沖地震で注目された
原子力機器の耐震性

 平成19年に発生した新潟県中越沖地震以後、原子力発電施設の耐震性が大きくクローズアップされるようになりました。世界有数の地震国である我が国においてエネルギーを安定的に供給するには、発電設備・機器の耐震安全性が極めて重要な課題と言えます。本研究室ではこれまで金属、プラスティック、複合材料などの強度や破壊に関するテーマを取り扱ってきましたが、このような社会的背景を鑑み、平成20年度から原子力発電施設で用いられる材料の疲労強度に関する研究を開始しました。本研究は北大の他部門の研究者と共同で実施しているものであり、経済産業省の「革新的実用原子力 基盤技術分野強化プログラム」にも採択されました。

材料の疲労強度から
耐震性を評価する

 地震荷重を受けることが予想される機器の耐震性を明らかにするには、使用される材料に人工的に繰り返し荷重を加え、それにより生じる損傷を評価することが必要です。我々は地震を模擬した繰り返し荷重を材料に加え、内部にどのような損傷が蓄積されるかを、変形挙動の測定、表面のミクロ観察、電子顕微鏡による破面観察などを通じて分析しています。図1は原子力配管で使用される特殊ステンレス鋼(SUS316NG)に疲労試験機で繰り返し負荷を加える様子です。信頼性の高い結果を得るために、一種類の材料に対し100本以上の実験データを取得し、それらを解析する地道な作業を続けています。条件によっては、ひとつのデータを得るのに1カ月かかることもあり、研究を進める過程で担当する学生達は自然に忍耐力を養うことになります。
 図2は地震に相当する荷重を受けた材料が、未使用材料と比較してどの程度損傷を受けるかを調べたグラフです。この場合、この程度の地震負荷を受けても材料の疲労に対する強度は十分保たれることになります。現在、実際の地震波に相当するダイナミックな荷重を試験片に忠実に負荷する技術や、原子炉の高温環境(300℃)における疲労特性を調べる技術など、試験技術の開発を並行して進めています。これを上述の分析と組み合わせることにより、機器の耐震性を材料強度の立場から定量的に予測する方法を構築しています。

図1 疲労試験機に取り付けられた原子力配管用ステンレス製テストピース(SUS316NG)
図1 疲労試験機に取り付けられた原子力配管用
 ステンレス製テストピース(SUS316NG)
図2 開発・実用化したジグの例
図2 模擬地震負荷が材料の疲労強度に与える
 影響を調べたデータ
図中の「+」印は模擬地震荷重。「△」印は過重を与える前のデータ、「◆」印は与えた後のデータを表す。両者の重なりから疲労特性にほとんど変わりがないことが読み取れる。

technical term
新潟県
中越沖地震
新潟県に建つ柏崎刈羽原子力発電所は現在運転停止中。このとき観測された耐震データを有効活用するべく解析が進められている。