特集TOPへ

地球を救うアトム、発電ロボットの開発

奈良林教授

人の体をいたわる目線で原子力発電所を見直すこと。
その優しさが未来の安心につながっています。

エネルギー環境システム部門
原子炉工学研究室
教授

奈良林 直 Tadashi Narabayashi
[PROFILE]
◎研究分野/原子炉工学、原子炉安全工学
◎研究テーマ/神経知能系を有する小型超安全炉の開発、惑星間航行用原子力推進宇宙船の開発、
地域共生型多目的エコエネルギー供給用原子炉の開発
◎研究室ホームページ/http://roko.eng.hokudai.ac.jp/index.html

100万kW級の原子力発電所を
人間と会話ができるアトムにする

 皆さん、鉄腕アトムを知っていますか?心優しい10万馬力の少年型ロボットです。今、再び鉄腕アトムが復活します。100万kW級の巨大原子力発電所を人間と会話ができるロボットにするのです。なぜ、原子力発電所の建設や運転に不安を持つ人がいるのでしょうか? 一般の人たちにとって原子力発電所は放射能を炉心に持つ、危険なもの、事故を起こす可能性があるものと思われているからです。しかし、原子力発電所は、発電時に二酸化炭素を排出しない、地球にとても優しい発電所でもあるのです。では、一般の人々にもっと優しい発電所にするには、どうすれば良いのでしょうか? その答えは「鉄腕アトム」だと思います。原子力発電所を構成する重要な機器や配管にセンサーを張り巡らせ、何か異常の兆候があったらそれを言葉で人間に知らせ、安全な状態に切り替えることができる神経と知能を持った発電ロボットを開発するのです。

過去の反省と新しい目標
発電ロボットの開発に必要なもの

 今までの原子力発電所は、発電所を停止しての定期検査で故障や事故の予兆を探していました。その一方で、検査もれや炉心水位の誤表示が原因の事故や、規則違反による炉心の核暴走で広い範囲に放射能をまき散らす大事故を起こした発電所もありました。こうした過去の反省に立って新しい目標としたのが、どのような場合でも運転員と会話をしながら、決められたルールに従って迅速に炉心冷却を確保できる、運転員や住民への優しさを持った発電ロボットです。
 発電ロボットに必要なものは、配管や機器の異常を検出するセンサー群とおびただしい信号をいかに少ない信号線で伝達し、情報を整理して予兆事象や故障を人間に分かりやすい形で伝え、かつルールに則って安全を確保するアクションを起こすかということです。このための網状センサーの開発、図1、図2に示す金属壁の減肉や金属疲労によるき裂進展などの基盤研究、大地震などの自然災害の影響を原子炉に与えない免震構造、配管の振動を減衰させる制振技術などの開発を多くの先生と行っています。いわば知力・体力を兼備したタフで人に優しい発電ロボットの開発プロジェクトです。

図1 配管減肉試験片(液滴衝撃エロージョン)
図1 配管減肉試験片(液滴衝撃エロージョン)
図2 表面観察結果
図2 表面観察結果
エロージョン分布(青い部分が深い)

technical term
発電ロボット 高度な安全が求められる原子力発電所を、自らの不具合を感知し発信できる知能と神経を持つもの、すなわち“発電ロボット”へと進化させていく。