VOICE Square

卒業生コラム

山本 裕子

人の役に立つ学問「工学」との出会い

北海学園大学工学部
社会環境工学科
准教授

山本 裕子 Yuko Yamamoto
[PROFILE]
1997年3月 北海道大学工学部衛生工学科卒業
1999年3月 同大学 大学院工学研究科都市環境工学専攻博士前期課程修了
2002年3月 同大学 大学院工学研究科都市環境工学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
2002年4月 国際連合大学高等研究所(東京)
2007年4月 北海学園大学工学部社会環境工学科 准教授
現在に至る

きっかけは大学受験の失敗

 高校時代の夢は、人の健康を守る医者になることでしたが、一年浪人するも医学部には不合格で、理I系に入学しました。当時、北大は2年の後期から学部に移行するシステムでしたが、医学部受験で失敗した私は何を目標にしてよいかわからず悩んでいました。そんなときに目に留まったのが、工学部衛生工学科の紹介パンフレットでした。そこには「人の健康と環境を守る」という趣旨のことが書かれていて「これだ!」とひらめきました。工学部にこのような分野があることを初めて知り、もしかすると衛生工学で多くの人を一度に健康にできるかもしれない、と嬉しく思ったのを今でも覚えています。

大学院で外の世界を知る

放牧地横の河川での調査風景(流速測定)
▲放牧地横の河川での調査風景
(流速測定)
 大学院進学の年に大学の再編があり、新しくできた環境リスク工学分野の一期生として進学しました。当時の研究テーマは、札幌市豊平川に流入する温泉水由来のヒ素の流れを把握し、人への健康リスクを評価することでした。ヒ素の河川水中での挙動を知るため、修士・博士課程の5年間にわたりほぼ月一回、夏の暑い日も冬の氷点下の凍える寒さの日も豊平川の上流に通って調査しました。このヒ素を研究テーマとしたことが、外の世界を知る大きなきっかけにもなりました。当時、世界各地で飲料水のヒ素汚染が明らかになり、中でも被害が深刻なバングラデシュに調査に行く機会を何度もいただいたり、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインが改定されるにあたり、ヒ素汚染情報収集の要員として、ジュネーブのWHO本部で5ヶ月間のインターンをする機会にも恵まれました。生きる基本である安全な飲み水を多くの人が得られない現実を目の当たりにして、衛生工学の重要性を再認識しました。

工学との出会いを大切に

乳牛の放牧地
▲乳牛の放牧地
 勤務4年目となる大学では、リサイクルや都市環境など環境に関連する講義や実習を担当しています。高価な分析機器は少なく、大学院生も専攻で数名しかいないなど、最先端の研究は難しい状況ですが、卒業研究で配属された4年生5名と一緒に、酪農畜産地帯を対象として、家畜や肥料由来の窒素、リンや家畜に用いられる動物用医薬品の河川中での挙動について地道に調査研究を行っています。
 大学には、受験に失敗して失意のまま入学したり、入学後に意欲を喪失してしまう学生が少なくありません。窒素などの栄養分が過多となった排水路
▲窒素などの栄養分が過多となった
排水路
少しでも多くの学生に、せっかく出会った工学は人の役に立つ学問なのだ、ということを伝えたいと思っています。私の社会人生活は、研究とまったく関係ない主婦や派遣社員を経験するなど、遠まわりすることが多くありましたが、大学院時代に時間をかけて様々な経験をしたことで、どこにいて何をしていようとも、自分が大切にする思いを失わずに生きていける自信のようなものがつきました。ぜひ若い皆さんには、大学院に進学して様々な人や出来事に出会い、時間をかけて学んで欲しいと思います。

◆学生コラムへ