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月面でコンクリートを造る -ルナコンクリートについて- Concrete Production on the Moon - Lunar concrete -

堀口准教授

人類を魅了してきた月に構造物が建つ
未来へのカウントダウン。技術者の夢が実現します。

環境フィールド工学部門
環境機能マテリアル研究室
准教授

堀口 敬 Takashi Horiguchi
[PROFILE]
◎研究分野/建設材料学、コンクリート工学、材料科学
◎研究テーマ/建設材料の耐久性、コンクリート構造物の耐火性、
 宇宙コンクリート、光触媒のコンクリートへの適用、ポーラスコンクリートの開発
◎研究室ホームページ/http://conc-sg.eng.hokudai.ac.jp/
Takashi Horiguchi:Associate Professor

Laboratory of Environmental Material Engineering Division of Field Engineering for Environment

◎Research field:Construction materials,Concrete technology,Material Science
◎Research theme : Durability of construction materials,Fire resistance of concrete,Space concrete,
 Photocatalysis application to concrete structure, Development of porous concrete
◎Laboratory HP:http://conc-sg.eng.hokudai.ac.jp/indexe.html

古代ローマ遺跡から宇宙へ
夢のルナ(月)コンクリート

 コンクリートのルーツは、9000年前の新石器時代の住居跡などにもみられます。とくに、2000年前の古代ローマのパンテオン(図1)は奇跡的な巨大ドーム構造物で、数々の驚きの先端技術が隠されています。こうした歴史あるコンクリートを未来の月面構造物に応用する研究は非常に楽しいものです。国内はもちろん、カナダやフランスの大学で講義したときも、学生の目は輝いていました。世界中でほんの僅かな大学しかルナコンクリートの研究を行っていないため新鮮なのでしょう。ここではルナコンクリートの研究成果を紹介します。
 ルナコンクリートの材料は、地球上での製造と同じくセメント、水、骨材です。骨材は月面上で地球と類似の鉱物が確認されています。セメントの製造も可能で、種々の方法が提案され、我々も灰長石を利用した方法を提案しています。問題は水です。理論的には、水は月面の鉱物、例えばイルメナイトから合成することや、軽量な水素だけを地球から運ぶことも可能でしょうが、いずれにしても「とても貴重な水」です。最近では月面に大量の水(氷)が存在することが報道され、ルナコンクリートの実現可能性が見えてきました。さらに我々は液体の水を用いないコンクリートの製造法(DM/SI法)を提案しています。

図1 パンテオン(ローマ)約2000年前のコンクリート構造物
図1 パンテオン(ローマ)
 約2000年前のコンクリート構造物 Figure 1:Pantheon, Rome, about 2000 years old concrete structure.

超高真空、隕石、温度変化
過酷な月面環境に耐えぬく

 ルナコンクリートの強度特性を図2に示します。骨材はNASAから提供を受けたシミュラントです。この図から、地球のコンクリート(OPC)には少し劣りますが、月の材料を使ってもある程度の強度性状を持つコンクリートの製造が可能であることがわかります。とくに、DM/SI法の有効性が確認できます。
 月面は非常に過酷な環境です。超高真空、隕石による衝撃、温度の著しい変化、太陽風など、ルナコンクリートはこうした過酷環境に耐えなければなりません。図3は当研究室が開発した高真空環境下での物性試験装置です。ルナコンクリートは、こうした過酷環境下においても十分耐えられる材料であることが確認され、近い将来月面構造物の構築にルナコンクリートが大きく貢献することが考えられます。

図2 ルナコンクリートと通常のコンクリートの圧縮強度(DM/SI法と通常のWet mix)
図2 ルナコンクリートと通常のコンクリートの
 圧縮強度(DM/SI法と通常のWet mix) Figure 2:Compressive strength of Lunar and
 conventional concrete.(DM/SI and Wet mix)

図3 高真空環境下における載荷試験装置
図3 高真空環境下における載荷試験装置 Figure 3:Loading system under high-vacuum
 environment.

technical term
コンクリート 社会基盤を支える「なくてはならない材料」。構成材料の90%は身近にある石と水であるが、人工材料の代表としても見られている。