宇宙環境が引き起こすプラスティックの強度劣化を予測するために
To estimate the strength degradation of polymer materials induced by space environment
〈偉大な一歩〉をさらに進める劣化研究。 |
|
機械宇宙工学部門 |
|
[PROFILE] ◎研究分野/材料強度学、材料工学 ◎研究テーマ/金属材料の超高サイクル疲労特性、超高真空における疲労機構、 宇宙環境における高分子材料の劣化機構、複合材料の環境強度、材料試験システムの開発 ◎研究室ホームページ/http://mech-me.eng.hokudai.ac.jp/~material/
Takashi Nakamura:Professor
Laboratory of Mechano-materials Division of Mechanical and Space Engineering ◎Research field:Strength of materials,Mechanical materials |
プラスティック材料にとって
過酷な宇宙環境
プラスティック材料は人工衛星の熱制御材や太陽電池パネルなどに使用されるほか、次世代宇宙技術であるインフレータブル構造の材料としても注目されています。インフレータブル構造とは、小さく畳んだ状態で打ち上げた後、宇宙に到達した時点で大きな構造物に展開する技術であり、5月21日にHⅡAロケットで打ち上げられたソーラーセイル「イカロス」にもこの先端技術が使われています。
しかし、プラスティックにとって宇宙空間はさまざまなエネルギー粒子や放射線が飛び交う過酷な環境です。特に、高度200〜700kmの空間(低地球軌道:LEO)には、原子状酸素(AO)が存在し、多くのプラスティックを損傷させることがわかっています(図1)。AOが材料の物理的・化学的特性に及ぼす影響については、これまで数多くの研究が行われてきました。ところが、宇宙構造物の信頼性・安全性に直結する強度特性はほとんど明らかにされていません。
宇宙構造物の信頼性を求めて
国際宇宙ステーションで実験
そこで本研究室では、宇宙という極限環境がプラスティックの強度に与える影響を調べるために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究を行ってきました。特に2001年に開始した「国際宇宙ステーションロシアサービスモジュールを利用した材料曝露実験(SM/MPAC&SEED)」では、耐熱性プラスティック膜材を実際のLEO環境に1〜3年間曝露し、どのような損傷を受けるのかを明らかにしました(図2)。
また、宇宙ステーションでの実験と並行して、JAXAの地上施設を利用し、LEOにおける主な環境因子であるAO、電子線、紫外線などが材料の強度劣化に及ぼす影響を調べてきました。これらを総合することで、プラスティックの強度が宇宙空間でどの程度劣化するのか、また、一定期間の使用後に、あとどれだけ安全に使えるのか、などを予測する方法の開発を試みています。プラスティック材料の実宇宙環境での強度特性に関する研究は、世界的にも端緒についたばかりです。宇宙構造物の信頼性・安全性をより向上させるために、多くの若い研究者がこの問題に取組むことを願っています。
原子状酸素 (AO) |
酸素分子が紫外線によって分解されたもので、極めて高い反応性を示す。 |
- 無火薬式小型ロケットで
新市場を創出する
機械宇宙工学部門
宇宙環境システム工学研究室
教授 永田 晴紀 - 宇宙環境を利用した工学研究
-未来の有人宇宙活動を支える-
機械宇宙工学部門
宇宙環境応用工学研究室
教授 藤田 修、准教授 中村 祐二 - 月面でコンクリートを造る
-ルナコンクリートについて-
環境フィールド工学部門
環境機能マテリアル研究室
准教授 堀口 敬
- 地球外生命は存在するか?-先端光技術が拓く宇宙のミステリー-
応用物理学部門
フォトニクス研究室
教授 馬場 直志、助教授 村上 尚史 - 宇宙環境が引き起こすプラスティックの強度劣化を予測するために
機械宇宙工学部門
材料機能工学研究室
教授 中村 孝