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持続可能なサニテーションシステムの開発

船水 尚行  教授

世界の水問題に挑む新サニテーションシステム。
日本から生まれた環境技術が国際協力の第一歩に。

環境創生工学専攻 
サニテーション工学研究室
教授

船水 尚行 Naoyuki Funamizu
[PROFILE]
◎研究分野/衛生工学 
◎研究テーマ/排水分離分散型処理、コンポストトイレ、尿の処理、資源回収、排水再利用
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/UBNWTRSE/

開発途上国での普及を目指す
低コスト脱水洗式バイオトイレ

 ヒトのし尿には窒素やリンといった貴重な肥料成分が含まれています。しかし、同時に病気を引き起こす病原性微生物も含まれるため、適切に処理しなければなりません。現在広く使われている水洗トイレはし尿を水道水で流すので衛生的ですが、下水処理場では窒素やリンの処理は通常行われていないので、河川や湖などに排出されています。また、札幌市の一般家庭で水洗に使用される水は一日の水使用量の約20~30%にもなります。
 私の研究室で開発を進めている糞便から直接肥料を作るトイレは、水を使わない(水資源を守る、水の汚染を防ぐ)、窒素・リンを回収する(農業に肥料を循環する)、病原微生物を処理する(衛生状態を守る)という三つのことを同時に実現しようとするものです。また、開発途上国の人たちのために低コストにすることも考えています。

「し尿」を工学する
最重要課題は水分コントロール

 我々は、し尿とおが屑を混ぜてコンポスト(肥料)を作るトイレに着目しました(図1)。トイレの大きさや運転の条件を決めるために、まず糞便や尿を“工学の目”で見ることから始めました。その結果、糞便の80%は水分であり、残りの20%のうち微生物に分解できる量は約半分、このような特徴は食べ物が違っていても大きく変化しないことが分かりました。
 次に、悪臭を発生させずに尿をコンポストにし、病原微生物による健康リスクを小さくするために必要な反応の条件(温度、水分の量、混ぜる回数)を実験とコンピュータシミュレーションにより求めました。その結果、糞便は約2日で分解されること、水分をコントロールすることが一番重要であることが分かりました。そこで、トイレからの水分の蒸発がどのように進むかを検討した結果、世界のさまざまな気候条件に合わせたトイレの大きさを決めることができるようになりました。
 現在は、電気を一切使わず、人力で混ぜる装置を組み込んだ低コストのトイレの開発に取り組んでいます(図2)。糞便と尿を分離して回収する便器を用い、糞便だけをコンポストにすることを考えています。インドネシアや中国で実証研究を行いながらその有効性を明らかにしていきます。

図1 トイレに設置したコンポスト反応槽
図1 トイレに設置したコンポスト反応槽

図2 子供でも自力で使える利便性を追求したし尿分離式便器と手回し装置
図2 子供でも自力で使える利便性を追求したし尿分離式便器と手回し装置

technical term
サニテーション
システム
下水道や水洗式トイレなど、人間生活の中で、し尿を含む排水を適切かつ衛生的に処理・回収し、自然に還元していく仕組み。