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水を多く含むバイオマス廃棄物を石油化学関連物質へ

増田 隆夫 教授

バイオマスから石油化学物質を。廃棄物の有効利用で環境・エネルギー問題の解決に貢献。

有機プロセス工学専攻
化学システム工学研究室
教授 

増田 隆夫 Takao Masuda
[PROFILE]
◎研究分野/環境・エネルギー問題解決のための合理的化学プロセスの開発 
◎研究テーマ/触媒を利用した未利用難処理炭素資源の資源化、ナノポーラス材料を利用した反応・分離プロセス開発
◎研究室ホームページ/http://cp1-ms.eng.hokudai.ac.jp/

触媒技術の活用で
廃棄物を資源に衣替え

 私たちはいろいろな製品を簡単に手に入れることで快適な生活を送っていますが、大量生産→大量消費→大量廃棄という流れで自然環境への廃棄物の排出量が増え、さまざまな環境問題が発生しています。しかし、廃棄物を有用な物質に変える技術が開発されれば、“廃棄物”は“資源”に衣替えします。
 下水汚泥や生ゴミ、家畜糞尿のように、水を多く含むバイオマス廃棄物は、その資源化が難しいため、埋め立てや燃焼、過剰な土壌散布による自然の浄化力に頼って処理されてきました。これらの有機性廃棄物が持つ炭素量は、日本で燃料として消費される石油の約2割に相当するとも言われています。石油や石炭は動植物の死骸が何億年、何十億年もの間、地球内部の熱と圧力によって化学変化したものです。私たちは触媒技術によって、この自然の変化を1時間以下で人工的に再現することにより燃料や各種有用化学品として資源化する技術開発に取り組んでいます(図1)。最近では、高性能な鉄触媒を開発し、下水汚泥からアセトンやガソリンを作ることに成功しました。

図1 ベンチスケールの触媒反応装置
図1 ベンチスケールの触媒反応装置

高純度の有用物質を
高速で抽出する脱水膜の開発

 私の研究室では、バイオマス廃棄物から得られた有用化学物質の水溶液から水だけを取り除き、高純度の有用物質を得るための技術開発も行っています。例えばアルコールと水の混合液を熱するとアルコールを多く含む蒸気が出てきます。それを冷やすと元の混合液よりもアルコールに富んだ混合液が得られます。 これを“蒸留”と呼び、これを繰り返すことで蒸発しやすい液を高濃度の液にすることができます。しかし、この方法で水を多く含むバイオマス廃棄物から純度の高い有用成分を造るには、水を取り除くのに大きなエネルギーを必要とします。そこで私たちは、バイオマス廃棄物から造られるエタノール、酢酸、アセトンなどの水溶液から水のみを高速で取り除く膜(脱水膜)の開発(図2)とその膜を用いた脱水システムの技術開発に取り組んでいます。
 このようにバイオマス廃棄物を少ないエネルギーで効率よく有用化学物質に転換できれば、環境・エネルギー両面の問題を同時に解決することができるのです。

図2 開発した脱水膜の断面写真
図2 開発した脱水膜の断面写真
脱水膜の素材には耐久性や耐熱性、透過速度に優れたゼオライトを使用

technical term
ゼオライト 結晶化したケイ酸ナトリウム。
ゼオライト系の触媒によりバイオマスからアセトンやプロピレンが生成される。