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微小空間を利用する計測用バイオリアクターの開発

上舘 民夫 教授

わずかなサンプルから最大の成果を引き出すために。
生命科学の最前線を支える計測技術の高感度化を目指して。

生物機能高分子専攻
生物計測化学研究室
教授

上舘 民夫 Tamio Kamidate
[PROFILE]
◎研究分野/生物計測化学
◎研究テーマ/リポソームの分析化学への応用、高感度な生物・化学発光法の開発
◎研究室ホームページ/http://bioanal-mc.eng.hokudai.ac.jp/BioanalLab_jp

負荷をかけずに、より正確に 
ナノスケールのバイオリアクター

 生物計測化学の分野では、ヒトの血液などの微量サンプルから、対象物に負荷をかけずに効率よくさまざまな研究データを得ることが求められています。我々の研究室では、分析用の試料・試薬の微量化や分析システムの小型化を可能にする省資源・低環境負荷型の分析法を開発するため、ナノスケールの微小空間を物質計測の反応場に応用する研究を行っています。
 我々は、ナノスケールの反応場としてリポソームに注目しました。リポソームとは脂質二分子膜で構成される閉鎖小胞(粒径:数十nm~数十μm)で、生体膜モデルとして利用されています(図1)。最近では、リポソーム中に酵素を内封すると酵素活性が長時間保持されることに注目して、リポソームの内水相を酵素反応場に利用するバイオリアクターも考案され、医療や食品などの産業分野で利用が検討されています。

図1 リポソームおよびその内水相における酵素反応の概念図
図1 リポソームおよびその内水相における酵素反応の概念図

世界初の化学発光用バイオリアクターが
タンパク質の測定に貢献

 我々は、ペルオキシダーゼ(HRP)をリポソーム内に封入し、化学発光反応のバイオリアクターとして初めて応用しました。HRPは高分子量のタンパク質なので、リポソームから外水相に漏出しません。一方、リポソームの外水相に過酸化水素と化学発光試薬であるルミノールを添加すると、それらの物質は低分子化合物なのでリポソーム膜を透過し、リポソームの内水相に到達します。その結果、内水相中のHRPが触媒として作用して、ルミノールの発光反応が進行します(図1)。 リポソームの内水相を化学発光反応のバイオリアクターとして利用すると、HRPを水溶液に溶解したときと比較して、発光量が著しく増大し、また、発光が長時間にわたって観測されます。得られる発光量が大きいほど、リポソーム内に封入したより微量のHRPを測定することが可能になります。HRPはタンパク質やDNAを測定する際に標識体として利用されていますので、結果として、より微量のタンパク質やDNAの測定が可能になります(図2)。また、用いる試料や試薬量の削減も可能になり、マイクロ分析システムの検出反応にも応用が期待されます。

図2 HRP内封リポソームの標識体への応用
図2 HRP内封リポソームの標識体への応用

technical term
バイオリアクター 酵素または微生物を触媒として、物質の分解、合成などを行う反応装置。