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地球医療の切り札 ―“腐る”プラスチック ―

田口教授

ものづくりの主役は石油化学工業から生物化学工業へ。“腐る”プラスチックで地球の健康を守りたい。

生物機能高分子専攻
バイオ分子工学研究室 
教授

田口 精一 Seiichi Taguchi
[PROFILE]
◎研究分野/分子生物学、酵素工学 
◎研究テーマ/生体環境調和型システムの創成、バイオプラスチックの生産システム
◎研究室ホームページ/http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/seika/

地球の“メタボ”を救う 
バイオプラスチック

 今、地球はあちらこちらで悲鳴を上げつつあります。人間が何らかの病気になったら、診断し治療します。人間の医療と同様に、どうやら地球の医療も真剣に考えなければならなくなってきたようです。
 白川英樹博士は、“電気を通す”プラスチックの先駆け研究でノーベル化学賞を受賞されました。毎年、世界で約2億トンの石油プラスチックが生産され、分解されないまま蓄積の一途をたどり、地球に大きく負荷をかけています。まさに地球レベルの生活習慣病です。そこで今、石油ではなく再生可能な生物資源を原料に自然環境中で完全分解され元の生物資源に還元される“腐る”プラスチック「バイオプラスチック」を作るプロセス開発が進んでいます。すでに、バイオ燃料が生物資源から生産される時代が到来し、世界は大きな技術革新の波を迎えています。すなわち、石油化学工業から生物化学工業へのパラダイムシフトです。図1に、炭素循環に組み込まれるバイオプラスチックの生産システムを示します。二酸化炭素排出が低減される点が魅力ですが、問題は生産コストと性能です。

炭素循環システム
図1 循環システムに基づいた地球環境に優しいバイオプラスチック生産

スーパー酵素の働きで 
畑からプラスチックが生まれる時代へ

 通常、石油プラスチックは化学工場で生産されますが、バイオプラスチックは微生物や植物が生産工場にあたります。また、石油プラスチック合成に化学触媒が必須なように、バイオプラスチックの合成には生体触媒「酵素」が必須です。生物進化の原理を工学的に応用すると、酵素分子が進化した「スーパー酵素」ができることが分かってきました。現在、このスーパー酵素を活用して、微生物の体内にバイオプラスチックPHAを体脂肪さながらに80%以上蓄積させる技術と、タバコの葉っぱなど植物に直接合成させる技術の開発に成功しています(図2)。将来的には、水と二酸化炭素を原料に太陽光エネルギーを駆動力として畑でプラスチックができる時代が来るかも知れません。

ステップ生産
バイオプラスチックPHA生産のための微生物工場と植物工場
図2 バイオプラスチックPHA生産のための微生物工場と植物工場

technical term
炭素循環 自然界に存在する二酸化炭素がバイオプラスチックの合成に活用され、最終的に分解されることで元の状態に戻る循環システム。