特集 1-知恵と多様性の翼で羽ばたく工学研究者に-

特集 工学研究院長・工学院長・工学部長 名和豊春教授を囲む学生座談会

参加者

工学研究院長・工学院長・工学部長 名和 豊春
工学研究院長・工学院長・工学部長

名和 豊春教授

Professor Toyoharu Nawa,
Dean of the Faculty of Engineering

[PROFILE]
北海道三笠市生まれ。77年北海道大学工学部建築工学科卒業後、80年同大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了。92年東京工業大学より博士(工学)取得。秩父セメント(株)中央研究所、秩父小野田(株)中央研究所、北海道大学大学院工学研究科助教授を経て、2004年教授に昇任。その後、工学部評議員、工学研究院副研究院長等を歴任し、14年4月より工学研究院長・工学院長・工学部長。

眞下 峻希

眞下 峻希
Takaki Mashimo

応用理工系学科
応用化学コース
学士課程2年

◎出身地/東京都八王子市

川﨑 敬

川﨑 敬
Kei Kawasaki

機械知能工学科
機械情報コース
学士課程3年

◎出身地/東京都大田区

小出 葵

小出 葵
Aoi Koide

環境社会工学科
資源循環システムコース
学士課程3年

◎出身地/東京都北区

鈴木 拓

鈴木 拓
Taku Suzuki

空間性能システム専攻
建築環境学研究室
修士課程1年

◎出身地/東京都世田谷区

古川 真帆

古川 真帆
Maho Furukawa

応用物理学専攻
生物物理工学研究室
修士課程1年

◎出身地/富山県富山市

山崎 広偉

山崎 広偉
Hiroi Yamazaki 

エネルギー環境システム専攻
原子力環境材料学研究室
修士課程1年

◎出身地/石川県金沢市

髙井 伸雄

[司会・進行]
髙井 伸雄 広報・情報管理室
広報誌編集発行部会長
工学研究院・准教授

学部時代の基礎知識を
社会に役立つ知恵に変える

司会 はじめに簡単ですが、名和研究院長のプロフィールをご紹介します。名和先生は昭和52年に北海道大学工学部の建築工学科(当時)を卒業され、大学院を出た後は民間企業に就職されました。その後平成9年に母校の北大に教員の職で戻ってこられて、皆さんの成長を見守っています。名和先生、一言お願いいたします。

名和 皆さん、本日はお集まりいただき本当にありがとうございます。ここにいる6人のプロフィールを拝見したところ、偶然ですが全員、北海道外の出身者ですね。北海道大学は全国から学生が集まってきており、現在は新入生の約6割が道外から来ています。近年はさまざまな場面でグローバル化や多様性というキーワードが出ていますが、日本の中でも北海道以外の土地に目を向けると、北海道とは異なる文化が息づいています。道内出身者も含めた学生の皆さんには、北大にいながらにして友人や先生たちを通して異文化を知り、その先にある世界へと関心を広げていってほしいと思います。
北大の前身である札幌農学校のことは皆さんもご存知でしょうが、有名なクラーク博士の次に就任した二代目の教頭ウィリアム・ホイーラー氏は土木工学の技術者でした。札幌市時計台(旧札幌農学校演武場)や豊平橋を設計したかたわら、学生たちに工学の重要性を伝え、彼のもとで内村鑑三や新渡戸稲造、広井勇ら素晴らしい先人たちが育っていきました。その内村鑑三が著作『Representative Men of Japan(代表的日本人)』を発表したことで、世界は日本という異文化を知るところとなりました。こうした先達にならい、皆さんにも広い世界を見つめながら成長していってほしいと願っています。

司会 次に、学部生3人から自己紹介をお願いします。

川﨑 僕は機械情報コースに所属しています。名和先生やいろいろな研究室の先輩が出席する座談会に参加する機会をいただいて、とてもうれしいです。

小出 私は資源循環システムコースです。学部卒業後は修士課程に進学を考えているので、今日は先輩たちのお話を楽しみにしてきました。

眞下 応用化学コースの2年です。目指している博士後期課程について、今後の参考になるようなアドバイスをうかがいたいです。

司会 続けて、修士課程1年の3人も自己紹介をお願いします。

鈴木 建築環境学研究室に所属しています。発熱密度の高いサーバールームを効率的に冷やす方法を研究しています。

古川 私は生物物理工学研究室で、トレハロースを用いた細胞の凍結保存に取り組んでいます。

山崎 僕は原子力環境材料学研究室に所属しています。土壌中の放射性Cs(セシウム)の移行挙動について調べています。

司会 事前に聞き取りした《座談会で聞いてみたいこと》の中に「学部生時代にやっておいてよかったことは何ですか?」という質問がありました。名和先生、お答えいただけますか?

名和 私が学生だった当時も今の皆さんも、学部生、特に新入生の頃は数学や物理などの基礎学問を学びます。実を言うと、私も学部生のときは「こういう勉強が将来どんなことの役に立つのだろう」という疑問が頭をよぎったこともありましたが、今でしたら当時の自分にはっきりと答えることができます。学部時代に工学にまつわる基礎知識を身につけておくことは、大学院や社会で新しい研究に挑む際の大きな力になってくれます。基礎知識があれば、自分で問題点を見つけ、計画を立てて実行していく一連の流れにスムーズに入っていくことができます。
そしてもうひとつ大事なことは、自分が伝えたい内容を文章に落とし込み、他者にわかりやすく説明する能力を学部時代に磨くこと。私の卒業論文の思い出に、こういうことがありました。卒論を何度推敲して提出しても先生に「まだまだわかりづらい」と返されて、「どこがわかりづらいんですか?」と聞き返しても「自分で考えなさい」とまた戻される。ようやく自分で問題点に気づいて内容を説明できるようになったと思ったら、次は「君の日本語がつたなくて、よくわからないよ。これで文章表現を勉強しなさい」と、文藝春秋を渡されました(笑)。
当時は必死でしたが、今振り返るとやはり、このときに鍛えていただいて本当によかった。大学院や企業に入ってから、これらの力が研究者としてのベースになっていることがよくわかりました。数学や物理などの基礎学問や文章力は、“生米”のようなもの。そのままでは食べることができないし、消化不良になってしまいます。この生米の状態の《知識》を我々はさらに発展させて《知恵》に変え、社会に役立つものにしていかなければなりません。

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