特集02

もっと光を! ―化学と生物の光を用いた新しい計測法を目指して―
"Mehr Licht!" Toward new analytical systems using chemi- and bioluminescence

川辺のホタル、百均のライトスティック…発光による計測法の進化で社会を照らそう。 生物機能高分子部門 生物計測化学研究室 准教授 谷 博文

[PROFILE]
○研究分野/分析化学
○研究テーマ/マイクロデバイスや生物・化学発光反応を用いた新しい生物計測システムの開発
○研究室ホームページ
 http://bioanal-mc.eng.hokudai.ac.jp/

Hirofumi Tani : Associate Professor
Laboratory of Bioanalytical Chemistry
Division of Biotechnology and Macromolecular Chemistry
○Research field : Analytical chemistry
○Research theme : Development of bioanalytical systems using chemi - and bioluminescence in ordered media and microdevices
○Laboratory HP :
 http://bioanal-mc.eng.hokudai.ac.jp/BioanalLab_en/Top.html

血痕検査から食品加工まで
光ると分かる発光の活用術

 皆さんはホタルなどの光を放つ生き物を見たことがありますか?生物が放つ光、生物発光は、酵素ルシフェラーゼを触媒とする基質ルシフェリンの酸化反応として古くから知られています。生物発光と同じように化学反応によって光を放出する現象は化学発光と呼ばれます。
 化学発光や生物発光は様々な分野で高感度な物質計測法として用いられています。血痕のルミノール発光検査はよく知られていますが、ホタル生物発光は食品加工現場の衛生検査にも利用されています。これは、微生物の持つアデノシン三リン酸(ATP)がルシフェラーゼ反応の基質の一つとなっているためで、微生物汚染を発光により調べることが可能となります。その他にも医療や環境の分野、あるいは生化学・生物学の研究における物質計測や反応解析などの分析ツールとして幅広く応用されています。

新奇な発光反応と
発光反応場を探して

 私たちの研究室では、この化学発光や生物発光を用いた分析法に関する研究を行っています。中でも発光反応を実施する場(反応場)や分析デバイスに着目しています。例えば人工細胞モデルとして知られているリポソームにカチオン界面活性剤を取り込ませたカチオンリポソームを反応場として共存させると、ホタル生物発光の強度が増大することを見出しました(図1)。

図1
図1 カチオンリポソーム共存下における増感ホタル生物発光 Figure1:Enhanced firefly bioluminescence in the presence of cationic liposomes.

この発光増感効果を利用することで、結果的に数百倍ものATP分析の高感度化に繋げることができました。
 また、化学・生物発光の測定には暗箱と光検出器しか必要としないため、装置の小型化が容易です。この特徴を活かしてマイクロ分析システムの検出法として応用する研究も行っています(図2)。この技術は医療や環境の現場で迅速かつ高感度な診断・計測を可能にすると期待しています。
  さらに当研究室では、反応に伴い発光と消光を繰り返す振動化学発光という奇妙な現象を見つけました。これまでは発光強度や発光色を指標として分析が行われてきましたが、振動周期とその変化などを指標とする全く新しい分析法になると考え、その応用の可能性を検討しています。

図2
図2 3次元微小流体システムを用いたオンチップ生物発光変異原性試験Figure2:On-chip bioluminescence mutagenicity test in three-dimensional microfluidic system.

technical term
生物発光・化学発光 生物発光は生物が光を放つ現象。化学発光は化学反応に伴い光を放出する。百均などで販売されているライトスティックもその応用例。