特集01

ダイヤモンドで計測?
―高温・高放射線場でも使える放射線検出器を作っています―
Diamond for measurement?
― Development of diamond radiation detectors for high-temperature and high radiation field ―

厳しい状況下にも負けない究極のダイヤで理想の計測システムを! 量子理工学部門 量子ビーム応用計測学研究室 准教授 金子 純一

[PROFILE]
○研究分野/放射線計測、計測用材料開発、医用原子力
○研究テーマ/耐放射線性ダイヤモンド半導体デバイスの開発、酸化物シンチレータの開発、食品安全用放射線計測装置の開発など
○研究室ホームページ
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/higedon/

Junichi H. Kaneko : Associate Professor
Laboratory of Quantum Beam Measurement and Application
Division of Quantum Science and Engineering
○Research field : Radiation measurement, Material science for radiation detection
○Research theme : Crystal growth and application of diamond, Development of scintillating materials
○Laboratory HP :
 http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/higedon/

婚約指輪の主人公
ダイヤモンドを作る仕組み

 皆さん、ダイヤモンドはアルコールから作ることができるのを知っていましたか? 図1に非常に原始的な気相合成法を紹介します。ちょっと頑張ればあなたにも作れそうでしょう。他に火薬が爆発した時の煙の中にもダイヤモンドが含まれています。とは言え、ダイヤモンドが我々の生活に登場するのは何と言っても結婚の時ですよね。これを読んでいる皆さんの中にも10年ぐらい経つとダイヤモンドのお世話になる人が「多分」出てきます。婚約指輪は誕生石なんて思っている君、甘いですよ。婚約指輪は日本ではダイヤモンドなのです。
 大学院博士後期課程に在学中、シンクタンクのアルバイトで稼いだ20万円と現・妻の手を握りしめ、僕は東京・秋葉原にある宝石卸問屋街を歩き回りました。その時買った指輪は、ほんのわずかのホウ素を含んでいて、青い光を放つ電気の流れるダイヤモンドでした。

図1 図1 君にも作れるダイヤモンド合成装置 Figure1: A diamond growth system for you.

半導体材料としても究極
人工衛星開発や省エネの切札に

 電気が流れると聞き、勘の良い人は気づいたかもしれませんが、ダイヤモンドは半導体です。最も硬い物質として有名ですが、半導体材料としても究極的で、500℃以上の高温環境でも安定して動作する電子デバイスを作ることができます。シリコンなどの半導体物質は放射線が当たると簡単に壊れてしまいますが、ダイヤモンドは放射線に対しても頑丈です。我々はこの特長を生かし、ダイヤモンドから放射線を測定する検出器とそれを動かすために必要なトランジスターを開発しています。
 センサーとして使う場合、ダイヤモンド結晶に電極を付けて、放射線によって結晶の中に生じる電流を測ります。このとき、電荷を全て集める必要があるので、「猛烈」に質の高い理想のダイヤモンドが必要になります。そこで図1と類似した方法を使い、水素ガスの中でメタンガスを分解してひたすら高品質なダイヤモンドを作っています。図2に合成の様子を示します。残念ながら宝石にはできません。
 現在、我々は、2011年の震災での重篤な事故で計測機器が全滅した福島第一原子力発電所の例を踏まえて、どんな状況でも原子炉の状態を把握できる計測システムを作るためにダイヤモンドを応用しようと考えています。この技術は将来的に人工衛星用電子デバイスや省エネの切り札となるダイヤモンドパワー半導体デバイス開発の基礎ともなるのです。

図2 図2 マイクロ波プラズマ合成装置でダイヤモンドを合成中…写真のようなダイヤモンドは作れません Figure2:View of real diamond growth using a microwave assisted plasma CVD system … unfortunately we cannot obtain a diamond like this figure.

technical term
気相合成 低圧のメタンと水素からなるガスをプラズマ中で反応させ、約1000℃の基板上に堆積させてダイヤモンドを作る技術。