特集02

ソフトマターの形と機能
Form and function of soft matter

応用物理学部門 ソフトマター工学研究室 教授 折原 洋

[PROFILE]
○研究分野/ソフトマター物理
○研究テーマ/ソフトマターの相転移とレオロジー
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MOLPHY/home/index.html

Hiroshi Orihara : Professor
Laboratory of Soft Matter Physics
Division of Applied Physics
○Research field : Soft Matter Physics
○Research theme : Phase transition and rheology of soft matter
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MOLPHY/home/index.html

ソフトマターを
創る、観る、操る

 ソフトマターとは、液晶、高分子、生体物質などの柔らかい物質の総称です。私たちが毎日使っているシャンプーや洗剤、クリームなどは、高分子や界面活性剤からなるソフトマターです。液晶ディスプレイの液晶(図1)はソフトマターの代表例です。さらに、私たちの体の大部分もソフトマターからできています。このようにソフトマターは身の回りに溢れていて、硬い金属、半導体、絶縁体などと同じように重要な物質ですが、構造の複雑さゆえに、その物理的研究はやっと最近始まったばかりです。
 柔らかいソフトマターは、外場(電場、磁場、応力等)により容易に形を変え、その性質を制御することができるため、液晶ディスプレイ以外にも最先端デバイスへの応用が期待されています。私たちの研究室では、ソフトマターの合成、その複雑な構造および多様な性質の物理的解明と機能のデバイス応用に取り組んでいます。

図1 地球観測衛星群

図1 液晶の偏光顕微鏡写真 Figure 1 : Polarizing microscopic photograph of liquid crystal.

図1 全球気候モデルの概要
図2 電場をかけたときの粘度の低いドロップレット構造
(a)から粘度の高いネットワーク構造(b)への変化 Figure 2 : Change from (a) droplet-dispersed structure with low viscosity to (b) network one with high viscosity when subjected to electric field.

ドロップレットが水飴状に
電場によって粘度が変わる

 ここでは、ソフトマターの形と機能の一例として、電場をかけると粘度が増大する液体を紹介します。水と油のように互いに溶け合わない2種類の高分子を混合すると図2(a)のように一方の高分子(緑色)が他方の高分子(黒色)のなかに球状のドロップレットになって分散します。これに流れを与えて、さらに電場をかけると、ドロップレットが引き伸ばされたり、くっついたりして、図2(b)のようなネットワーク構造ができます。
 このような形の変化は粘度の著しい増大を引き起こします。ドロップレットの状態は水のようにサラサラですが、ネットワークになると水飴のようにドロドロになります。つまり、電場によって粘度を制御することができるのです。このようなソフトマターは車のブレーキからビルの免震装置まで多くの応用が考えられています。
 この例からもわかるようにソフトマターは形の宝庫であり、その物理的研究は、硬い物では実現し得なかった全く新しい機能を持つデバイスへの道を拓くと期待されています。

technical term
液晶 細長い分子からなり、液体と固体の中間的状態をとる物質。電場により分子の方向を変える性質がディスプレイに利用されている。