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卒業生コラム

ものづくりを支える「黒子」を目指して

株式会社日立製作所 日立研究所材料研究センタ 
エネルギー材料研究部
研究員

泉 岳志 Takeshi Izumi
[PROFILE]
2004年 北海道大学大学院工学研究科 分子化学専攻博士課程修了
2004~2007年 アイオワ州立大学・アメリカ エネルギー省
エイムズ研究所 博士研究員
2007年 北海道大学大学院工学研究科 博士研究員
2008年 株式会社日立製作所 入社 
日立研究所、材料研究センタへ配属
現在に至る

材料ってどう?

「工学」と聞くと何を思い浮かべますか?機械や建築のように、形が見えたり触ったりできるものは想像しやすいと思いますが、「材料」と答える人は多くないでしょう。私も大学に入る前はそうでした。周りを見渡せば、多種多様の材料に囲まれているのに、なかなかそれに気づくことはありません。材料は、空気と同じように「あって当たり前」の目立たない存在ですが、空気のように「無くてはならない」人々の生活を支える基盤なのです。また材料工学は、軽くて、強くて、暑さ寒さに強くて…等々、人々の思いつく限りの無理難題に応えてきたチャレンジングな領域です。

偶然の賜物

 学部生の時に、企業の方を招いての講演会があり、発電用のガスタービン材料の話を聴講しました。そこで、発電用の高温材料は厳しい環境で使われ、材料工学の様々な知見が凝縮されていることに興味を持ちました。講義後、講師の方がとある研究室に入っていくのを見かけて、この研究室なら同じ研究が出来るのかな? と単純な誤解から研究室を選び、そのまま現在の研究へと至っています。その講師の方は学会等でお見かけしますが、今の私はその方のライバル企業の一員になっています。
▲試験片施工中の筆者。音と光は迫力満点。 大学院を修了した時、海外で研究する機会を得ました。就職もせずに、将来的にも不明な研究員をすることには不安もありました。さらに、言葉の分厚い壁がある海外では前途多難が目に見えていました。しかし、思いきった分、ここで書ききれないくらいの体験ができたと思いますし、不安定なりのわくわく感もありました。帰国後、大学でさらに研究員をしていた時、研究員を探していた現在の上司と偶然知り合いました。大きな回り道をしましたが、今は企業での職を得ています。偶然の出会いが積み重なって今があるのだな、そう改めて感じます。

企業研究者へ試行錯誤

▲発電用ガスタービン
 材料には部位ごとに異なる特性が要求され材料技術者にとって挑戦の場。
 現在は、企業研究者に変身すべく試行錯誤の毎日です。大学の研究では、材料の優れた特性が見つかると、まずはそれを延ばすように研究を進めます。得られた知見を論文や学会等を通して世の中に還元していくことが最終目標です。一方、企業での研究では、材料として性能が抜群に優れていても、コストや生産性も考慮しないと実用化には至りません。さらに、実用化が可能でも、市場の動向、特許の取得等の様々な要素をクリアする必要があります。自分が考えた材料がどうやって作られるのかを想像し、世の中のニーズはどうなっているのかアンテナを張っておく必要があるのです。それらは、決して自分一人でできるものではありません。職場の同僚や、異なる価値観と文化をもったさまざまな部署との交流で培われるものです。苦労も多いですが、考え方や生活様式が大きく異なる海外での研究員生活の経験が役に立っています。私の学生時代に比べて、これからは異なる文化や雰囲気に触れる機会が増えるでしょう。ぜひ、好奇心と自信を持って飛び込んでほしいと思います。
 私の研究分野である構造用材料は信頼性が要求され、実用化までに10年以上かかることも珍しくありません。日々の研究には派手さもありませんし、自分が研究している成果がいつ日の目を見るかわかりませんが、その日を夢見て研究を続けています。

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