特集01

物理学のすすめ
Encouragement for Physics

論文を書き終えて達成感を得るまでは大変だけど楽しい文化祭の準備期間のよう 応用物理学専攻 数理物理工学研究室 博士後期課程2年 池谷 聡

[PROFILE]
○出身地/静岡県
○好きな名言/「一見して馬鹿げていないアイデアは見込みがない」(アインシュタイン)
○高校生におすすめしたい本/キャリー・マリス著『マリス博士の奇想天外な人生』、
 夏目漱石著『こころ』、朝永振一郎著『鏡の中の物理学』
○好きな方程式/Bogoliubov-de Gennes方程式

Satoshi Ikegaya
○Laboratory HP : http://subutu-ap.eng.hokudai.ac.jp/index.html

ノートの中に記された
壮大な自然の秘密に感動

90分間の講義を終えたとき、ノートの最後には楕円軌道を示す関数が書かれていました。それは、地球が太陽の周りを公転していることを証明するものでした。当時大学2年生だった私は、自分のノートの中で壮大な自然の秘密が解き明かされていることに、なんとも言えない興奮と感動を覚えました。そして現在の私といえば、一人前の「物理学者」になるべく研究漬けの毎日を送っています(図1)。

嬉しいことに、2016年のノーベル物理学賞は、私の研究分野である「トポロジカル物質の物理学」の創成期に活躍した物理学者達に贈られました。トポロジカル物質の物理学は、トポロジーと呼ばれる数学的概念を物理学に応用して、これまでにない物質や物理現象を探索しようという学問です。私自身は、一部のトポロジカル物質に現れる、マヨラナ粒子と呼ばれる不可解な粒子の性質について研究を行っています。これまでの研究では、マヨラナ粒子が引き起こす特異な物理現象の存在を理論的に示してきました。長い議論と考察を経て、一見複雑そうな物理現象が、シンプルで美しい数式によって説明できたときの喜びは、何にも代えがたいものでした(図2)。幸いにして、これまでの研究成果は、アメリカやイギリスの主要科学論文雑誌に掲載され、国際的水準で高い評価が得られています。

図1 図1 いつもの研究風景。基本的には紙と鉛筆、ときにはコンピュータを使って計算しています。 Figure1: Picture of my desk. I can study physics only with a pen, a note and a laptop.
図2 図2 私が発見したマヨラナ粒子とトポロジーを結びつける公式の導出。こんな短い板書でも、自然の秘密を語ることができるのです。 Figure2: Our theory which relates Majorana particles and topology. Such the short note on a black board tells us a secret of universe.

世界の森羅万象を知りたい!
知的好奇心が原動力

物理学は、この世界の森羅万象を支配する基本法則が知りたい、という知的好奇心に突き動かされている学問です。その一方で、家電製品、医療機器、スマートフォンといった現代社会におけるテクノロジーの根幹をなすのが、物理学の知見である、ということもまた紛れもない事実です。自然を正しく理解する事は、必ず誰かの役に立つのです。とはいえ、物理学の知見は、必ずしも1年、2年、あるいは10年で人の役に立つ形に昇華される訳ではありません。

私の夢は2つあります。1つは遠い未来で誰かの生活を支えている、そんな物理学的発見をする事です。そしてもう1つは、90分間の講義で、誰かを感動させられる、そんな物理学的発見をする事です。

[指導教員]応用物理学部門 数理物理工学研究室 准教授 浅野 泰寛

理論研究は、遅々として前には進みません。
でも、真摯に情熱を傾け続けた者だけに、時折自然が微笑みます。君に幸多からんことを。