VOICE Square 2
悠久の大地に見た
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[PROFILE]
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純白の街の想い出
北海道大学へ赴任したとき、道内の知人は直属の上司だけだった。それから数えきれないほどの出会いがあり、母校の筑波大学へ戻った今でも年に何度かは札幌行きを楽しむ機会に恵まれている。札幌のよいところは、都会であるにも関わらず人を信じられるところ、安心して人と付き合えるところである。そのせいもあるのだろうか、札幌で出会った人々の面影は純白の雪景色と共に思い出されることが多い。生き馬の目を抜くような競争に明け暮れて、さらなる豊かさを求める道もあるかもしれない。が、もし札幌がそうなってしまったら、私はその取返しのつかない喪失を嘆くだろう。
伝統と革新と
北海道と筑波、何とも対照的な二大学に身を置いたものだと今になって思う。
北海道大学には伝統がある。機械工学科でも講座一つ一つに歴史があり、かつては学生だった教授がその歴史を語り継いでいる。教員と学生との距離感にも古風なものを感じる。教員には自信と自負があり、それが必要だと信じることを学生に教える。学生の側も自然な敬意をもってそれに答える。大学を企業に見立てて学生が「顧客」か「商品」かを議論するような世相に、静かに異を唱えているようにも見える。
筑波大学はどうか。東京高等師範学校・東京教育大学の流れを汲むも、一度大きな断絶があり、筑波に移転して半世紀に満たない。が、当時としては新しい試みに満ちており、例えば講座制を持たず、教員一人一人が独立して自由に研究テーマを決められる。分野横断的な教育もそうした試みの一つである。私の担当する工学システム学類では、学生は機械・電気・電子・土木・建築等の多様な工学分野を幅広く学んでいる(「学類」は他大学の学科に相当)。
道は分かれても……
講座制がないと若手が育たない、幅広く教えるのでは専門性が育たないと見る向きもあろう。しかし先人があえてこうした制度を遺したのは、個々の教員の自由な発想を花開かせて新しい知のあり方を探し求め、文系・理系の壁を越えて現実問題に立ち向かえる学生を育てる、その理念ゆえではなかったか。
私が選んだのは、研究でも教育でも「学際」を重んじる道である。研究面では、競争的なエネルギー市場を模擬する対戦型コンピュータゲームを開発し、市場参加者の心理と行動が新エネルギー技術の普及に与える影響を調べる計画を立てている。システム工学と社会心理学を統合し、人の心が技術選択を左右する現実社会を読み解くことを目指している。教育面では、エネルギー問題の社会的側面を工学部の学生に教える方法を模索しており、ゲーム・裁判事例等を用いた双方向型授業の設計や海外の大学における授業の調査に取り組んでいる。
新たな道を見出せたのは、短い間でも王道を歩んだ経験があったからだと思う。貴重な機会を与えてくださった北海道大学の皆様に改めてお礼申し上げると共に、これからも旧帝国大学の威風を示し続けて欲しいと切に願う。