特集04

シミュレーションが解き明かす合金組織のダイナミクス
Computer simulation on dynamics of microstructural process in alloys

未来につながる材料工学の奥行き。金属材料の潜在能力を最大限に引き出す。 材料科学部門 組織制御学研究室 准教授 大野 宗一

[PROFILE]
○研究分野/金属組織学、計算材料科学
○研究テーマ/凝固・相変態、鉄鋼材料の組織制御
○研究室ホームページ
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MSESC

Munekazu Ohno : Associate Professor
Laboratory of Microstructure Control
Division of Materials Science and Engineering
○Research field : Metallography, Computational Materials Science
○Research theme : Solidification・Phase transformation,
 Structure Control of Steels
○Laboratory HP :
 http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/MSESC

社会に影響を与える材料工学
新材料開発の鍵は金相にあり

 材料工学は多くの工学分野の基盤となる分野であると言われています。安全性や意匠設計に優れた構造物、高エネルギー効率の輸送機、高速コンピュータの開発など、様々な分野において今よりも優れた新しい材料を開発することが求められています。では、優れた性質の材料とはどのように発見・開発するものなのでしょうか?手のひらに現れる線(シワ)や手の形態を見ることで、その人の健康状態や運勢を言い当てる手相占いのように、私たち材料工学の分野では、金相を観ることで金属材料の性質を科学的に予測することが可能です。ここで金相とは、金属材料を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察したときに現れる模様、言い換えると金属組織のことを指します。金属中の結晶構造や成分濃度が場所によって異なることで様々な模様が現れます(図1)。金属液体が固まるとき、固体金属を熱したり変形させたりするとき、また合金の成分を変化させることで、多様な組織が現れます。ここで重要なのが、組織を構成する粒子などのサイズや形に応じて、金属材料の性質、すなわち硬度、強度、変形能、電気伝導や磁気特性などが著しく変化することです。つまり、金属組織を私たちの望みどおりにコントロールできれば、新しい材料が創製できる、ひいては様々な工学分野の発展に貢献できるわけです。

図1 金属組織の例 図1 金属組織の例
 (a)鉄鋼材料の組織: bcc構造のα鉄(明るい領域)とFe3C化合物の二相共存状態、
 (b)超硬合金の組織: FeAl化合物中にTiB2硬質粒子(暗い色の粒子)が分散している様子、
 (c)Ti-Al合金の凝固組織:樹枝状結晶(デンドライト)が優先方位をもって整列した様子、
 (d)マグネシウム合金の組織:方位の異なる複数の結晶によって構成された多結晶組織 Figure 1 : Examples of microstructures in metals.
 (a)Microstructure in steel consisting of α-Fe (bright region)and Fe3C (dark particles).
 (b)Microstructure of cermet with TiB2 hard particles (dark particles)dispersed in FeAl matrix.
 (c)Unidirectionally solidified dendrite structure in Ti-Al alloy.
 (d)Grain structure of Mg alloy

シミュレーションは
組織制御の有力な手段

 金属組織を望みどおりにコントロールするためには、組織形成のダイナミクスを解明し、温度・圧力など私たちが通常コントロールできるパラメータとの関連性を知る必要があります。計算機シミュレーションは、これを実現するための最も効果的な手段の一つです。シミュレーションによる金属組織の研究は急成長中の領域であり、私たちのグループでは、金属組織を計算するための数学モデルの開発と計算機シミュレーションによる合金組織形成のダイナミクスの解明に取り組んでいます(図2)。このようなシミュレーションによって金属組織のダイナミクスが解明されつつあり、現在よりも優れた金属材料の開発へとつながっています。

図2 シミュレーション結果の例 図2 シミュレーション結果の例
 (a)等温デンドライト組織、(b)正常粒成長組織、(c)微細粒子分散組織、
 (d)一方向凝固組織、(e)正常粒成長組織 Figure 2 : Examples of simulation results.
 (a)Isothermal growth of dendrite,(b)normal grain growth,
 (c)precipitation of fine particles in solid-solid transformation,
 (d)unidirectional solidification,(e)normal grain growth,
 (d)abnormal grain growth,

technical term
金属組織 金属を構成する結晶の構造、サイズ、成分濃度に応じて、数mm~数nmの空間スケールで現れる模様を意味し、材料の性質を決定する。