大学院生特集2

気鋭のエンジニアが集う異種対談

これからの未来は、
エンジニアが創る。

同じ工学研究者でも取り組む研究内容は実にさまざま。
各自が思い描く未来像や時代に求められるエンジニアの使命とは—。
6人の若手研究者が工学の明日について本音で語り合いました。

植村 真人

有機プロセス工学専攻
有機合成化学研究室
博士後期課程1年

植村 真人 Masato Uemura

◎出身地/神奈川県神奈川市
専門は触媒反応。博士号取得を目指す。

大野 宗一

材料科学部門 
組織制御学研究室
准教授

大野 宗一 Munekazu Ono

◎出身地/北海道北見市
ドイツで研究後、母校の北大に勤務。

松岡 常吉

機械宇宙工学専攻
宇宙環境システム工学研究室
博士後期課程2年

松岡 常吉 Tsuneyoshi Matsuoka

◎出身地/大阪府大阪市
夢は宇宙。ロケットエンジンを開発。

田部 豊

エネルギー環境システム部門
エネルギー変換システム研究室
准教授

田部 豊 Yutaka Tabe

◎出身地/埼玉県ふじみ野市
民間企業での勤務を経て、現職に。

山田 朋人

環境フィールド工学部門
河川・流域工学研究室
准教授

山田 朋人 Tomohito Yamada

◎出身地/千葉県
NASAでの研究経験を生かし、現職に。

遠藤 裕丈

環境循環システム専攻
資源システム工学研究室
博士後期課程2年

遠藤 裕丈 Hirotake Endoh

◎出身地/北海道札幌市
社会人博士課程。土木の分野で活躍。

触媒、ロケット、環境問題
多種多彩な工学のフィールド

植村
今日は6人全員が初対面ですね。僭越ですが、私から自己紹介させていただきます。有機プロセス工学専攻の有機合成化学研究室で、触媒反応について研究しています。将来は世界と渡り合うためにも博士号の取得を目標にしています。
松岡
私は旅好きが高じて宇宙旅行に憧れるようになり、今はロケットのエンジン開発に関わっています。より安全により低コストで宇宙に行ける方法を探っています。
遠藤
私は寒地土木研究所に勤務しながら資源システム工学研究室で学ぶ、いわゆる“社会人博士課程”の学生です。寒冷地独得の課題であるコンクリートの凍害に対する耐久性設計法と対策について研究を進めています。
山田
私の研究テーマは地球水循環システムの解明です。NASAゴダード宇宙飛行センターに勤めた後、09年春から北海道大学に勤務しています。
田部
私も山田先生と同じく民間企業を経て、現在はエネルギー変換システム研究室で持続可能な環境調和型社会エネルギーシステムに関する実験と解析に取り組んでいます。
大野
私が取り扱う素材は金属材料です。材料の性質を決める内部組織の形成原理を明らかにし、その現象を適切に記述するために実験と計算機シミュレーションを併用して研究を行っています。

集合写真

海外と日本の研究環境事情
自由な発想で社会還元を目指す

松岡
海外での研究経験をお持ちの大野先生、山田先生にうかがいます。日本と海外とでは研究環境に違いがありますか?
大野
ドイツにいて実感したことは、向こうでは博士号取得者(以下、ドクター)の地位が高いですね。例えば電車のチケットを買う時にもミスター、ミセス、そしてドクターの分類があるぐらい社会的に認知されています。国を動かす立場の人間は博士号を取っていて当然という風潮を感じました。
山田
アメリカも同じです。国際会議でも海外勢はドクターの絶対人数が日本よりも圧倒的に多い。マンパワーを感じます。日本は大学院でも「学生」という響きに受動的なイメージがあるのでしょうか、「博士号取得を目指します」と言っても、「で、将来はどうするの?」と心配されてしまう。
松岡
大学院で研究を続けるという進路は、好きなことを真剣に続けたくて、自分の意志で選んだ道。日本でも博士号取得への理解が深まると嬉しいです。
大野
日本の学生はポテンシャルが高く、さらに勤勉などの他国には真似できない長所もたくさん持っています。博士研究員(ポスドク)も含め博士号取得者は一つの研究分野で成果を出した優秀な人材だという証。社会に役立つ工学研究に貢献しています。
遠藤
社会との接点がある現場に身を置いて最近感じるのは、自分の研究が社会にどう役立つのかをわかりやすく説明できる人材が求められているという事です。手元の研究に固執するだけでなく、目線は常に社会還元。そのためには異分野間の交流も重要です。人間が一人では何もできないように、工学もさまざまな力が結集すればもっといろんな事が実現できるはずです。
山田
私たちはつい「分ける」事に夢中になりがちですが、本来はサイエンスやエンジニアの枠もなく、専攻の垣根も越えた中で目標に向かう、自由な研究環境を維持する事が大学の理想の姿だと考えています。その点、まだ赴任したばかりですが、北海道大学はアットホーム。研究の輪が広がりやすい雰囲気が浸透しているように感じます。
松岡
私も実際に今、指導教官以外の先生にも研究の相談にのっていただき、非常に心強く感じています。

時代は「環境立国・日本」
研究者は客観性を大切に

座談
座談

植村
今の時代の流れとして「環境」が大きなキーワードになっています。「環境立国・日本」に工学研究者はどう向き合っていけばいいのでしょうか?私の場合、触媒研究への純粋な興味と「環境」との接点を探っている最中です。
大野
確かに、環境に悪影響を与える物は工学研究者として扱うべきではありません。全員一丸となって環境について考える必要性も十分感じています。ただ、研究者ならば必ずしも世論と行動を共にする事を最優先にするのではなく、一歩引いた目線を持つ客観性も忘れてはいけないと思います。
田部
全く同感です。私自身は環境・エネルギー分野が専門で、「美しく健やかな地球にしたい」という思いもありますが、判断や行動のベースとなるのは、あくまでも定量的かつ論理的な思考。世論や報道の「右に倣え」から距離を置き、客観的に自分なりに正しいと思う意見を構築できるところが工学研究者の強みです。
山田
今後、「環境」が世界の重要産業になっていく事は明白な事実です。現在は「環境」との接点を意識しながら研究を進め、この後の真価を発揮できるチャンスづくりにつなげていってはどうでしょうか。悩む事も大事、前に進む事も大事、の発想です。
植村
ありがとうございます。みなさんのご意見が大いに参考になりました。

豊かな社会ってどんな社会?
未来のレールは自分たちが創る

座談
座談

田部
ここまで工学が進化した今、「豊かな社会」と聞くと、皆さん、どういう世界を想像されますか。
大野
難しい質問ですね。昔、手塚マンガに描かれた近未来のような共通のビジョンが見えづらい時代に入っている気がします。
遠藤
インターネットや携帯電話、便利だと思われるツールが揃い、暮らしが豊かになったと思う反面、そのツールに縛られている不自由さを感じる瞬間はありますね。
田部
文明国として欧米を手本としてきた日本が、今では世界と肩を並べるレベルにまで成長を遂げました。となると、今から20年後あるいは50年後の日本がどうなっていくかは誰にもわからない。これからは、あらかじめ予想された未来へのレールを進むのではなく、ビジョン自体を造っていく「未来創造」の時代。そこでは理系の人材の中でも、やはり定量的かつ論理的な思考で物事を組み立てられる工学研究者が大きな役割を果たしていくと思います。“工学研究者であることがますます面白くなってくる時代”が、私たちの、そしてこれから工学の道に進む人たちの目の前に広がっています。

遠慮や恥じらいは捨てて
次の扉を開ける「行動力」

山田

松岡
遠藤さんが社会人博士課程を選んだ動機は何だったんですか?
遠藤
私の職場は土木が専門分野です。取引先の施工会社や役所から来る質問は、どれも教科書には答えが載っていないようなものばかり。限られた条件下で測定されたデータでは、実社会の現場に応用できない事もわかってきました。それらの生きた質問に答えられるようになるには、自由な発想で研究ができる大学で学び、ゆくゆくはその成果を職場に持ち返りたいという思いで通っています。
山田
すばらしい行動力だと思います。私も博士課程時代に国際学会でインスパイアされたアメリカ人の先生を学会中ずっと探し続けまして(笑)。ついにはご自宅に招かれ一緒に論文を書き上げた経験がNASAでの研究生活につながったという実体験があります。若い皆さんにもぜひおすすめしたいのは、まず行動すること。失敗を恐れずに、格式ばった遠慮もいりません。少しでも興味を持った方向にどんどん進んでいってほしいですね。

先人を上回る感動が
工学研究の明日を作る

大野
大学院で学ぶほどに「こんなにわからない事があったのか」という尽きない課題が見えてきます。ところが自分のアイデアで先人たちの知恵を少しだけでも上回ることができた瞬間には、途方もない感動が待っています。その感動を一度でも体験してしまうと、あとは工学研究のとりこに(笑)。幸いなことに北海道大学は一つの研究に腰を据えて取り組める静けさがあり、研究者をやさしく後押ししてくれます。
松岡
誰でも好きな事は必ずあるはずです。自分の経験上、それをまじめに続けていけば、何かしら道が見えてきます。あとは続ける上で不平不満を言わない覚悟が肝心。好きで選んだ道ですから、目の前の事を大切にする姿勢を貫きたいですね。
植村
経験する前から「嫌いだ」と決めつけてしまうのはもったいない話です。どんな経験も自分のマイナスにはならないと信じて、いろんな事に挑戦していきたいです。

集合写真