前に進み続ける「強さ」を内に

北のキャンパスも雪解けを迎え、新入生の表情は期待に満ちあふれています。
工学研究科長・三上 隆教授から工学研究科の未来を見据えてメッセージを贈ります。

工学研究科長

双峰型教育で柔軟な人材を育成
インターンシップのすすめ

―はじめに工学研究科の教育について教えてください。
三上 工学研究科に入学される皆様に、教員を代表して心より歓迎の意を表します。現代の科学・技術の進歩は目覚ましく、工学にかかわる各学問分野のライフサイクルが短くなってきています。こうした時代の変化に柔軟に対応できる人材を育成するため、本研究科では主専修と副専修から成る「双峰型教育」を実践しています。
主専修として所属専攻の科目、副専修として所属専攻以外の専攻の科目を履修するもの。
―時代の変化に柔軟に対応できる人材を育成するための具体的な取り組みについてお聞かせください。
三上 本研究科と情報科学研究科で設置した工学系教育研究センター(CEED:Center for Engineering Education Development)では、国内外への「インターンシップ派遣事業」や企業の第一線で活躍する技術者を講師に招いた「創造的人材育成特別講義」等、社会と連携した教育を積極的に行っています。これらを通じて、専門知識を実践的に活かせる能力と、それを実社会で活用するマネジメント能力を併せ持つ人材を数多く輩出しています。インターンシップに参加した学生からは、「研究の専門性を磨くだけでなく、人間的にも成長できる貴重な機会になっている」という頼もしい報告も受けています。また、国際社会で活躍できる人材を育成するために、CEEDを中心に英語教育に力を入れており、「Brush-Up英語講座」「実践科学技術英語」「英語論文作成支援」などのプログラムを実施しています。

広報・情報管理室長「えんじにあRing」編集長 工学研究科・教授 名和 豊春
聞き手 広報・情報管理室長「えんじにあRing」編集長 
工学研究科・教授 名和 豊春

国際的な魅力にあふれ 女性が活躍できる大学へ

―近年、国境を越えて魅力ある大学を探し求める“学生の国際的流動化”が顕著ですが、国際性を意識した取り組みについて教えてください。
三上  近年では、優秀な外国人留学生を積極的に受け入れ、教育の国際化を一層進めていくことが大きな使命になっています。本研究科の留学生数は年々増加傾向にあり、2008年度は、修士課程38名、博士後期課程68名の留学生を受け入れました(2008年10月1日現在)。また、本研究科には、海外から優秀な留学生を受け入れるプログラムがあります。「工学分野リーダー育成英語特別コース(e3:English Engineering Education Program)」は、英語のみで講義や研究指導を行い、学位を取得できるプログラムです。また、経済産業省と文部科学省が推進する「アジア人財資金構想」(高度専門留学生育成事業)の一環として、2008年度から「北大フロンティアプログラム」がスタートしました。これは、日本企業・日系企業への就職を希望するアジアの留学生を受け入れ、通常の大学院教育に加えて、産学連携の実践的専門教育、日本語や日本ビジネス教育、インターンシップ等を行い、高度な専門能力と現地対応能力を育成し、世界で活躍できる人材に育成することを目的としています。その他、本学は、ASEAN10ヶ国における工学系人材の育成と日本-ASEAN各国のアカデミックネットワークを確立することを目的としたASEAN工学系高等教育開発ネットワーク(AUN/ SEED-Net :Southeast Asia Engineering Education Development Network)を支援するメンバー大学として、土木工学分野を中心に、タイのチュラロンコン大学とともにメンバー大学の教育・研究能力の向上を目指して活動しています。
―近年話題になっている、女性研究者のサポートについて教えてください。
三上 本研究科の女子学生の割合は、修士課程11.8%(103/869)、博士後期課程13.6%(36/264)、女性教員の割合は1.3%(4/289)です(2008年10月1日現在)。この数字は決して高いとは言えませんが、今後は、女性にとっても学びやすく働きやすい教育・研究環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。また、本学の取り組みとして、女性研究者の採用・昇任を促進するため、2020年までに北大の全研究者数に占める女性研究者数の割合を20%にすることを目標とした「Triple Twenties計画」が進んでいます。その一環として導入した「ポジティブアクション北大方式」は、新たに女性教員を採用した場合、各部局が負担する人件費の4分の1を全学運用人件費より補填する制度です。その他、2005年度に、男女共同参画事業の一環として、「大塚賞」が創設されました。これは、研究者を目指す優秀な女子学生育成のための奨学金制度で、大学院博士後期課程最終年次学生の中で顕著な業績を挙げた女子学生に奨励金50万円が贈られます。昨年度は本研究科から1名が受賞しました。新入生の皆さんも是非後に続いてほしいと思います。

環境問題の解決に貢献する 総合工学を目指して

―21世紀の工学研究が地域や環境問題へどうアプローチしていくのか、今後の展望をお聞かせください。
三上 本研究科では、独創性・新規性・有用性の観点から「国際的な視点に立った研究」を重視し、さらには社会・経済・文化面でも社会的なニーズに応え、地域社会に貢献することを重視しています。現在、酸性雨や土壌汚染などさまざまな環境問題が顕在化していますが、21世紀最大の環境問題は地球温暖化と言ってよいでしょう。地球温暖化の克服と持続可能な発展は人類全体の課題です。昨年7月に開催された北海道洞爺湖サミットでも第一議題として掲げられました。環境問題は人口問題、南北問題など多面的な問題を抱えています。環境問題の解決のためには、技術開発型の工学のみではなく、学際的な総合工学として経済学、社会学、農学等と融合・連携していかなければなりません。
—最後に、新入生に向けてメッセージをお願いします。
三上  皆さんが社会の最前線で活躍する時代は、学歴ではなく、学習歴が問われる時代です。大学は「問いかけ、考え、思う」という思考力を養う場であり、それが判断力や決断力、想像力へとつながっていきます。緑豊かなキャンパスには、皆さんをしっかりとサポートしてくれる教員がすぐそばにいます。研究という名の冒険の日々を積み重ねながら、精神的にも肉体的にも強さを持った研究者として成長していくことを期待しています。
―本日は、どうもありがとうございました。

工学研究科長と「えんじにあRing」編集長

工学研究科長 三上  隆

良き師との出会いが、研究生活をさらに豊かに彩ってくれます。

工学研究科長

三上 隆 Takashi Mikami

[PROFILE]
1949年礼文島に生まれ、札幌で育つ。自然相手の仕事が好きで土木工学科へ。1972年3月北海道大学工学部土木工学科卒業、1974年3月大学院工学研究科土木専攻修士課程修了。その後、同工学部助手、助教授を経て1994年4月教授に昇任。2006年4月工学研究科長に就任し、現在に至る。