特集 1-世界に幸せをもたらす工学を目指して-

特集 1-世界に幸せをもたらす工学を目指して-

文章表現や歴史・文化への理解
人文科学の力を鍛えよう

名和 先ほど横断的な視野を持つことの大切さをお伝えしましたが、もうひとつ、ぜひ皆さんにお話したいことがあります。それは、エンジニアとしてだけでなく一人の人間として、一般教養の知識を身につけることの重要性です。例えば、文章表現もそのひとつ。社会に出たとき、必ずついてくる業務に報告書の提出があります。そこでいかに理路整然とわかりやすく、かつ人に訴える文章を書くことができるかは、実は学部時代に培った基礎力が大いに問われるところです。4年間の学びを通してしっかりと文章力を身につけてほしいと思います。
 そしてさらに大切なことは、日本の歴史や文化を知ることです。溝田さんの茶道同好会のお話もありましたが、自国の文化について海外の友人知人に向けて語ることができる素養は、今後グローバルに活躍する国際人に欠かせない条件になってきます。皆さんはこれから世界に羽ばたく人材です。コミュニケーションツールとしての英語はもちろん習得しておきたいところですが、肝心なのは伝えたい中身の充実度。英語に自信がないときは絵を描いてあるいは数式を書いて相手とコミュニケートし、対話に引き込んでいけばいい。その対話の中身を豊かにするためにも、学部時代に幅広い経験を積み重ねていってくださいね。

秋山・飯島・島谷 はい!

司会 企業時代は新卒者の面接官も担当されていた名和先生。学生達にアドバイスをお願いいたします。

名和 学生の皆さんにとって就職活動は気の抜けないものだと思いますが、実は雇用する企業にとっても、採用は自分達とマッチングする人材を探し当てる真剣勝負の場です。“学部生にはこの仕事”“院生だからあの仕事”というような区別はなく、その人にとって最もふさわしい部署で輝いてほしいからこそ、採用は人物重視。なかには、典型的な質問ではなく、意図的な“変化球”を投げて応募者の反応を見ようとする面接官もいます。なかなか素の自分を出さない応募者に「もういいんだよ、自分の言葉で話して」と語りかけて、リラックスさせたこともありました。
 では、面接で話し上手な人ばかりが採用されるかというと、実はそうではありません。これは私の持論ですが、どの学生にもいきいきと話し出したくなる話題が必ずあるはずです。そこを引き出すのが面接官の仕事であり、学生の潜在能力を引き出す我々教員の仕事とも重なるところがあると感じています。北大で工学を学んでいる皆さんは、全員が光るものを持っています。その光るものを本人達が見つけられるように我々教員も日々、力を尽くしています。

クラシック音楽のように
世界で愛される北大の工学に

司会 最後に、本日の座談会の感想を一人ずつ聞かせてください。学部生の皆さん、どうでしたか。

島谷 進路がまだ決まっていないことに内心焦りを感じていましたが、名和先生のお話をうかがって、少しほっとしています。好きな研究に没頭している先輩達のように、自分にもそういうものが見つかるといいなと思えるようになりました。

飯島 今の時点では学部で卒業し、できれば企業への推薦をいただいて就職、という道を考えていますが、皆さんに言っていただいた“自分が何になりたいかを考える”ところからもう一度始めたくなりました。研究とスポーツの両立に関しても多田先輩のお話を聞いて、自分もまだまだ頑張れそうな気持ちです。

秋山 気になっていた「専門分野の絞り込み方」について、いろいろな研究室に足を運び、実際に見て聞いた情報をもとに判断することが大切だと学ばせてもらいました。先輩や先生達、他の学部の人達とも、今まで以上に積極的に交流していきたいです。

司会 先輩の皆さんはいかがでしたか。

小池 学部生の皆さんの不安や疑問をうかがうことで、私自身の道のりを振り返ることができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。先輩や名和先生のお話も、将来のエンジニア像を考えるうえで貴重なヒントになりました。

多田 同じ大学院生でも専門やキャリアが違う皆さんの話を聞くことができて、楽しかったです。「こういう考え方もあるんだ」という新たな視野が開けました。僕もこれからいろいろな分野の知識を蓄えて、大きなエネルギーにしていきたいです。

溝田 修士課程を終え、これから社会人生活が始まる私としては、この座談会からすごく元気をいただきました。配属先は予想もしていなかった部署になりましたが、そこで一から頑張って新しいことを吸収したい。自分の幅を広げていきたいです。

徳永 博士後期課程に進むと研究中心の毎日ですので、接する機会が少なくなっていた学部生の皆さんとも今日は本当に楽しい時間を過ごさせてもらいました。将来はアカデミックな職場を目指していますが、学術的な分野の境界線にとらわれず常に新しいことに挑戦していきたいです。

名和 皆さん、あらためまして本日は本当にありがとうございました。皆さんもご承知のとおり、この度北海道大学は平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」タイプA(トップ型:世界大学ランキングトップ100を目指す力のある大学を対象)に採択されました。これからは「世界に開かれ、世界と協働する大学」として力強く前に進んでいこうとしています。
 皆さんはクラシック音楽をご存知だと思います。あの音楽は歌詞がないけれども、世界中から愛され、心地よいものだと認識されています。今後は我々北大が持つ工学の力も、このクラシック音楽のように世界のさまざまな場面で必要とされ、幸せな社会を作るために広く活用されることを目指しています。そのために我々一人一人が磨いていかなければならないのは、皆の幸せを願い、人を導いていける人間力。「一緒にやっていこう」と呼びかけ、自らも責任を持って動く行動力です。そしてこれらの力こそが、我々北海道大学の精神“Boys, be ambitious!”そのものである、ということを皆さんの心の中に刻んでほしいと願っています。一緒に頑張っていきましょう。

司会 本日はありがとうございました。

(平成27年2月23日実施)

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