特集 1-世界に幸せをもたらす工学を目指して-

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研究とスキーの両立
あきらめたくない自分がいる

島谷 学部と大学院、忙しさは違いますか?

徳永 忙しさの中身が違うかもしれませんね。私は学部時代、ラクロス部と販売のアルバイトに追われて、実は勉強は“ほどほど”。4年次から研究に本腰を入れ、現在は好きでやっている研究なので、気がつけば一日の大半を大学で過ごしている感じです。

秋山・飯島・島谷 すごい!

徳永 私の研究は人手がいるので、日中は研究室にいる後輩達に手伝ってもらいながら実験をし、午前中または夕方から論文を書くなどの一人でできることに集中しています。

名和 そうやって徳永さんが長時間熱中できるのも、きっと研究を続けながらワクワクする気持ちを感じているからではないですか。

徳永 名和先生のおっしゃる通りです。「こうやったらうまくいくんじゃないか」という仮説を立て、実際にやってみて、そうではない結果が出たらまた考えて…を繰り返すうちに、期待どおりの反応が得られたときは「やった!」の一言。一度でもその感動を味わえるとまた頑張ろうと思える。前に進む気力が沸いてきます。

名和 研究の醍醐味ですね。私が指導する資源循環材料学研究室でも同じです。3班体制で夜通し実験が続き、学生達に疲れが見え始めた頃に、なにかこれまでと違う現象が表れ、それを説明できたときは、皆の目が一斉にぱっと輝く。本学出身である、ノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生にも、きっとこういう体験の積み重ねがあったことだと思います。

小池 私の研究室はコアタイムがないので、スケジュール管理は自分次第です。学会前の準備やミーティング、後輩指導があるときはまめに大学に通いますが、そうでないときは朝9時から夕方5時まで、建設コンサルタント会社でアルバイトをしています。学部のときから働かせてもらっているところで、社員の方々の仕事ぶりを間近で拝見するだけでなく、自分もその一部を手伝うことで実務スキルを磨いています。

司会 自分の将来につながるアルバイト先を賢く選択した好例ですね。名和先生からも、学生時代のアルバイトエピソードを教えていただけますか。

名和 私が思い出深いアルバイト先は、修士時代に行った電気通信事業の会社です。友人と行ってみると、なぜかドイツ語の資料を渡されて、我々2人で翻訳することに。1カ月間辞書と格闘し、やっとの思いで完成させたら、その一部が回り回って地元の新聞に掲載されたときは驚きました。どうやら、その資料の中で我々が翻訳した「外断熱」という単語がそれ以降、広く北海道に根づいていったようです。

全員 ええっ!

司会 スケールの大きいお話に我々も驚きました。多田君のアルバイトは?

多田 学内で2つかけもちしています。インフォメーションセンターエルムの森や北大総合博物館での販売のアルバイトと、北大病院の配膳の仕事です。学部のときはこの2つのバイトに先ほどお話したスキー部の活動も加わり、寝る時間を確保するのに必死でした。

飯島 僕も今スノーボードをやっています。大学院に進んだら、スポーツなど自分の好きなことに割ける時間は少なくなりますか。研究との両立をどう乗り切ればいいのか、聞かせていただきたいです。

多田 個人的には“あきらめる”ということをしたくなくて、今も研究とスキーを両立するための時間配分を考えています。確かに、スキーに割ける時間が減ったことは事実です。学部時代には年90回近くゲレンデに行っていた回数も、今シーズンはまだ10回程度。でも、両立することで見えてくることは必ずあるはず。2年後の自分を想像したときに、「あのとき途中で止めた自分」よりも「両立できた自分」でいたい。具体的な対策例を伝えられなくて申し訳ないけれど、基本は“やりたいことを捨てたくない”という気持ちで動いています。

総合大学の利点を活かして
開かれた知識を身につける

名和 聞いていて気持ちのいい心構えですね。私が学生だったとき、実家がある三笠市(幌内)から北大までの通学時間は片道3時間でした。小さい頃から水彩画を描くのが趣味でしたが、皆さんと同じように4年次の卒業研究で研究意欲に火がつき、学部ではとても学び足りないと思い、大学院に進みました。そこからは大学での“人づきあい”が趣味になったようなもので、講座単位で受けたアルバイトの打ち上げや親友との旅行など、楽しい思い出をたくさん作っていきました。
 その一方で、修士になると研究そのものも、どんどん面白くなっていくんですね。先生と企業から「こういうものを作ってみたら」とアドバイスをいただいて、当時まだ世の中に存在していなかった“コンクリート中の水を凍らせて耐久性を計る装置”など、欲しいデータを計測するための装置本体から自作したこともありました。バーナーを使ってU字管のガラス工作をしたこともあります。そうやって研究に夢中になっているうちに大学院時代はあっという間に終わり、縁あって化学メーカーに就職しました。
 今はこうして北大に戻り、現職を務めておりますが、同時に有機化学合成に関する共同研究なども行っています。大学と企業の両方で研究を経験した私がはっきりと言えることは、「研究に“卒業”はない」ということです。大学院の修士課程まで進学したとしても研究期間はわずか6年間。私自身のその後の研究生活は30年近くになり、興味がわいた新分野を一から覚える楽しさも広がっています。
 また、これまでの学問体系は分野を分けて考える手法が一般的でしたが、これからの時代はもっと広い横断的な視点で物事を理解する力が必要です。そのためには学部時代の過ごし方が重要で、学部生の皆さんにはいろいろな先生の授業を聞いて、“開かれた知識”を身につけてほしい。私も現在、知りたい分野の授業に学生と同じように出席して、壇上の先生達を驚かせています。「原子物理学の父」と呼ばれた物理学者アーネスト・ラザフォードでさえも、そうしたエピソードが残っているのですから、皆さんも気後れせずにどんどん行動していってほしいと思います。

司会 北海道大学が総合大学であることも、“開かれた知識”の習得を応援してくれますね。

名和 まさにその通りだと思います。以前、私のところに農学部の学生が質問にやってきました。初めは外部の研究所を頼ったそうですが、実は灯台下暗しで、そこから同じ北大キャンパスにいる私のことを紹介されたそうです。きっと皆さんが彼と同じ立場になったときも、北大の教員の皆さんがやさしく迎えてくれると思います。

徳永 私も、ある実験装置の使い方がわからなくて困っていたときに、学内の低温科学研究所でも同じものを使っていることがわかり、聞きに行ったら親切に教えていただいたことがありました。他にも理学部や歯学部の図書室には、工学部にはない専門の資料が豊富に揃っていて大変役に立っています。

茶道同好会の仲間と交流
外に出ていくバイタリティー

溝田 私は編入で北大の工学部に入ってきたこともあり、茶道同好会でいろいろな経歴や興味を持った人達と出会えたことが、とても大きな刺激になりました。皆が集まったときのバイタリティーがすごくて、「もっと外の世界に出ていこう」という前向きな気持ちを持てるようになりました。ちなみに、茶道同好会では建築都市コースの皆さんに茶室を作っていただいたことがあります。「工学の力でこういうこともできるんだ!」と感激しました。

島谷 まだ進路を迷っている自分は、興味がある分野とない分野をきっぱり分けて考えがちだったので、今のお話を聞いてこれからの視点が変わりそうです。実は、「総合入試」で入ったときも、工学か理学か、でかなり迷いましたが、工学は研究の守備範囲が広く、入ってから自分のやりたいことを見つけられそうだと思えたところも、選択の決め手になりました。

溝田 これは私がいる総合化学院の先生の受け売りですが、例えば“オゾン層の破壊”という問題に対するアプローチとして、「なぜ破壊されるのか」を追求するのが理学、「どうしたら破壊を防げるか」を探るのが工学。そう、学生達に説明しているとうかがいました。

名和 小さい頃から自分のやりたいことが決まっている人に対しては、ぜひその道をまっとうしてほしいと応援する一方で、新入生の段階でまだ自分の将来が決まっていないとしても、それは決して不思議なことではありません。そういう人たちには、気になる研究室を自分の足で訪ね、先輩達から直接研究や就職などの話を聞く方法もおすすめしたいですね。

秋山 私もYOSAKOIサークルや塾講師のアルバイト先の先輩達に、いろいろな情報を教えていただくことが多いです。今いる建築都市コースも先輩後輩の距離がとても近くて、先輩達の研究の進め方をそばで見ながら、近い将来の参考にしたいと思っています。

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