「問いかけ、考え、思う」力を育む

春の足音に心が躍る4月、キャンパスも、新入生を迎えて活気に溢れています。
新たな学びのスタートラインに立った新入生に向けて、工学研究科長・三上 隆教授からメッセージを贈ります。

工学研究科長

時代の変化に柔軟に対応できる人材を育成する双峰型教育

—はじめに新入生へ一言お願いします。
三上 工学研究科修士課程および博士後期課程に入学される皆様に、教員を代表して心より歓迎の意を表します。大学院は、大学に引き続き、学問をする場です。皆さんが自分で学ぶ方向を定め、講義と研究を通じて「問いかけ、考え、思う」思考力を養い、自分で道を切り開いてください。我々教員は、しっかりと皆さんの後方支援をします。
—「自分で学ぶ方向を定める」能力を身につけるための工学研究科のカリキュラムの特徴についてお聞かせください。
三上 修士課程では研究課題を独自の発想により展開させ、論文としてまとめ、学会で発表する能力を養い、経験を積みます。博士後期課程では、研究課題をさらに深く開拓・展開させ、関連する専門分野においても研究指導できる能力を磨きます。本研究科では主専修と副専修から成る「双峰型教育」を実践しており、これらを通じて「深い専門性」と「多様な知識」を習得することができます。視野を広げ、時代の変化に柔軟に対応する姿勢が身につきます。そしてどういう場面でも、考え、実践する主役は自分であることを自覚し、能動的に活動することが、研究者としての厚みにつながるのです。
主専修として所属専攻の科目、副専修として所属専攻以外の専攻の科目を履修するもの。


工学研究科長 三上  隆

研究は冒険です。失敗を恐れず、前に進んでください。

工学研究科長

三上 隆 Takashi Mikami

[PROFILE]
1949年礼文島に生まれ、札幌で育つ。自然相手の仕事が好きで土木工学科へ。1972年3月北海道大学工学部土木工学科卒業、1974年3月同大学院工学研究科土木専攻修士課程修了。その後、同工学部助手、助教授を経て1994年4月教授に昇任。2006年4月工学研究科長に就任し、現在に至る。

国際社会で活躍できる人材育成を目指して

—工学研究科の教育の新しい取り組みについてお聞かせください。
三上  平成17年度に工学系教育研究センター(CEED:Center for Engineering Education Development)が設置されました。CEEDには、インターンシップ派遣を中心とする「産学連携教育」と、実践的な科学技術英語教育と学生発案型の国際活動を支援する「国際性啓発教育」、e-Learningの活用で社会人の遠隔学修を可能にする「社会人教育」という3つのプログラム開発部があります。こうしたプログラムと本研究科のカリキュラムとの相乗効果で、産業界や国際社会が要請する人材の育成を目指しています。
—実際にインターンシップを体験した学生の反応はいかがですか?
三上 体験発表会で報告する彼らの堂々とした姿からは、研究者としての自信や人間としてひとまわり成長した様子が見て取れますので、大きな成果を得られたと確信しています。
—「自分で学ぶ」という教育効果が現れたということですね。国際化を意識して設けられたもう一つのプログラム「e3(イーキューブ)」について教えてください。
三上  工学分野リーダー育成英語特別コース(e3:English Engineering Education Program)は、英語だけで講義や研究指導を行い、学位を取得できるプログラムです。外国人留学生を積極的に受け入れるために平成12年に社会工学系からスタートしました。平成19年度にはさらに発展し、材料系、機械知能工学系、環境社会工学系へと受け入れ間口が広がっています。近年、留学生の数は増加傾向にあり、平成19年度は、修士課程に31人、博士後期課程に55人を受け入れました。また、部局間交流協定を締結しているのは23組織、そのうち最近の2年間でアジアを中心とした8組織と交流協定を結ぶなど、アジアを中心に活発な交流が続いています。近年では、国境を越えて魅力のある大学を選ぶ“学生の国際的流動化”が顕著です。本研究科でも、諸外国との相互理解を深め、双方の教育・研究水準および開発途上国の人材育成に資するため、今後一層力を注いでいかねばなりません。
—その他に大学院生に対するサポート制度はどのようなものがありますか?
三上 平成17年度から全国に先駆け、博士後期課程の授業料免除に取り組んでいます。博士後期課程の教育研究環境の充実を目的に、1年次、2年次の全学生を対象に、希望者をリサーチ・アシスタント(RA)として採用し、経済的・教育的にサポートしています。

次世代の研究者が集う知の発信地として

—近年の大型プロジェクトについてお聞かせください。
三上 平成14年度に、“世界的な教育研究拠点の形成を重点的に支援し、国際的競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進する”ことを目的とした「21世紀COEプログラム」が始まりました。本研究科では、「流域圏の持続可能な水・廃棄物代謝システム(平成15~19年度、拠点リーダー:渡辺義公教授)」と「トポロジー理工学の創成(平成16~20年度、拠点リーダー:丹田聡教授)」の2つが採択されました。渡辺先生が率いるプログラムは、事業支援が終わった後も引き続き研究を進められる体制づくりをしています。また、平成19年度からは「21世紀COEプログラム」からさらに発展を遂げた「グローバルCOEプログラム」がスタートし、新たに「触媒が先導する物質科学イノベーション」(平成19~23年度、拠点リーダー:宮浦憲夫教授)が採択されました。これは、触媒化学を中心とする研究推進の他、我が国初の試みとなる工学研究科と理学院の化学系教育組織を統合した「総合化学院(仮称)」の設置と、「物質科学アジア国際連携大学院(仮称)」の設置を目的にしたものです。次世代を担う国際性豊かな研究者・技術者の育成の場として、国内外から注目を集めています。

ソフト・ハードの充実で学生生活をサポート

—工学研究科の今後の展望をお聞かせください。
三上  教育については、今後は、研究をビジネス化したいという学生を支援する産学共同プログラムなどにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。また、教育の場としての建物は老朽化が進んでいますので、現在、学生・教職員の安全・安心を確保することを最優先に整備が行われています。耐震補強、老朽化改善工事、機能改修工事の他にも、学問の創造と伝承の場にふさわしい教育研究環境の実現に向けて順次改修を行う予定です。
—最後に、新入生に向けてメッセージをお願いします。
三上 大学における教育には2つの大きな柱があります。それは学問を通して「専門家としての素養」を養うことと、お互いに受け入れ合うことができる「人格の形成」を図ることです。皆さんが社会の第一線で活躍する時代は、学歴ではなく、学習歴が問われる時代です。国内屈指の美しさを誇るキャンパスのなかで、研究に邁進しながら、時には待ち受ける試練を精神的にも肉体的にも前向きに乗り越えられるよう準備を重ねてください。
—本日は、どうもありがとうございました。

工学研究科長と「えんじにあRing」編集長

聞き手 大学院工学研究科・教授 平成18~19年度「えんじにあRing」編集長 石政 勉