研究成果の国際発信・海外研究者との交流

国際学会で最優秀学生発表賞を受賞した当時M2の佐藤君(2016年8月)
共同研究を行っている中国・清華大学で開催したワークショップで議論を先導する当時M2の角田君(2019年1月)

大学の研究成果を国際発信することは、これまでになく重要となっています。水再生工学研究室では、研究室学生の国際学会発表を奨励しています。国際学会で発表を表彰される学生もおり、大きな励みになっています。博士課程に進学する学生には有力な(インパクトファクターの高い)国際雑誌に論文を投稿するための支援を行い、研究者としての自立を促進します。水再生工学研究室ではIWAを中心とした国際活動により培ってきた海外ネットワークを活用し、研究室学生の積極的な海外派遣を行っています(米国:イェール大学、ワシントン大学、カナダ:ブリティッシュコロンビア大学、ベルギー:ルーヴェンカトリック大学、ドイツ:ベルリン工科大学など)。複数の国際共同プロジェクトに参画しており、海外研究者が頻繁に本研究室を訪問しています。

膜ファウリングの原因となる物質の解明

有機物分子量分布測定装置(LC-OCD)。ドイツ製。開発者と共にファウリング成分分析に適した分析条件開発にも取り組んでいます。
水晶振動子マイクロバランス測定装置(QCM-D)。スウェーデン製。ナノグラムレベルの吸着を精密に測定します。

膜ろ過は処理水質の飛躍的な向上、簡便な維持操作、処理装置のコンパクトさなどの大きな利点がある反面、膜の目詰まり(膜ファウリング)に伴うコスト上昇の問題があり、なかなか普及に弾みがつきません。逆に言えば、膜ファウリングの問題を解決できれば、膜ろ過の使用をためらう理由はなくなるはずです。

水再生工学研究室では、膜ファウリング問題の根本的解決を目指し、膜ファウリングの原因となる物質の詳細な調査を行っています。最新の分析機器を駆使する調査により、川ごとに、季節ごとに、膜の種類ごとにファウリングに関与する成分が変化することが分かってきています。理学部の先生との共同研究を実施しており、膜ファウリング成分の分子レベルでの構造解析にもチャレンジしています。

効果的な膜洗浄方法、膜運転方法の開発

超高強度洗浄を可能にするセラミック製精密ろ過膜。
下水処理場に設置した大型装置を用いる実験により、実用性の高い実験結果を得ています。

何が膜ファウリングを起こしているのか、どこで膜ファウリングを起こしているのか(膜の表面なのか、細孔内部なのか)が分かってくれば、対処するための手段を講じることができるようになります。水再生工学研究室では最新の知見に基づき、効果的な膜洗浄の方法、前処理の方法を探しています。最近はセラミックのような物理的・化学的にとても強い材質で作った膜があります。この特性を活かした超高強度膜洗浄方法についても検討しています。

省エネ型新規MBRの開発

仕切板挿入型MBR(BMBR)
膜洗浄に用いる粒状担体。

MBRが優れた処理技術であることは立証されていますが、活性汚泥法に比べると運転に必要なエネルギーがやや大きいことがネックとなっています。膜洗浄に必要となるばっ気がMBRにおける消費エネルギーを押し上げています。水再生工学研究室ではMBR槽内に粒状の担体を投入して運転を行うことで、ばっ気風量を半分以下にしても膜ファウリングを抑制できることを明らかにしています。またMBRに仕切板を挿入して水位をコントロールしながら運転を行うことにより、栄養塩除去に必要となる汚泥循環を外部動力なしで行うことができる方法(BMBR)も開発しています。これらの技術導入により、MBRは活性汚泥法と同程度のエネルギー消費で運転できることができるようになります。これらのアイデアを嫌気性処理と組み合わせ、エネルギー回収も同時に行う嫌気性MBRの省エネルギー化に関する研究も行っています。

下水の直接膜ろ過(DMF)→ エネルギー回収

下水直接膜ろ過(DMF)による下水の50倍濃縮。

現在の下水処理では、下水中に含まれる有機物を膨大なエネルギーの注入(ばっ気)により無機化しています。水再生工学研究室では下水中に含まれる有機物の大半(70-80%)が0.1ミクロン以上の寸法で下水処理場に流入することに着目し、膜ろ過を用いた下水中有機物の濃縮に取り組んでいます。下水中有機物濃度を10-20倍程度上昇させられれば、嫌気性消化は現在の技術レベルでも全く問題なく実行できます。もちろん、膜ファウリングの発生は非常に深刻なものになるので、これを抑制できるような効率的膜洗浄方法の開発が不可欠です。


水再生工学研究室では強力かつ省エネルギー的な膜洗浄方法を開発し、50倍程度の下水中有機物濃縮を安定して継続できることを実証しています。この方法による有機物濃縮では、嫌気性消化で問題となる硫化物やストラバイトの発生を回避できます(硫酸イオンやアンモニアイオンは膜透過水側に流出)。一方で膜透過水側に少量残存する有機物、窒素の処理をどのように最適化するかという課題は残っています。現在の下水処理は、世界中のエネルギー消費の3%を占めさらに上昇するという試算があります。下水の直接膜ろ過による有機物回収はこれを反転させて、下水処理による「エネルギー回収」により世界中のエネルギー消費量の数%をカバーするポテンシャルを持っています。

家畜ふん尿消化液のFO膜処理による濃縮

酪農地域では家畜の頭数を維持するために多くの牧草(飼料)が必要であり、このために大量の化学肥料を散布しています。家畜からは大量のふん尿が発生し、この安定化処理のために嫌気性消化(バイオガスプラント)処理が行われます。バイオガスを用いた発電や熱回収が可能ですが、同時に大量の栄養塩を含む消化液が発生します。この消化液を酪農地域内で循環活用できればよいのですが、上述したように酪農地域ではすでに多量の化学肥料が注入されています。酪農地域の土壌では、構造的に栄養塩過多の状態が生じやすくなっています。一方で、酪農地域以外の農地では肥料が不足しています。酪農地域で発生する消化液を他の農業地域へ持ち出すことができれば問題は解決するのですが、現時点では現実的ではありません。ほとんどが水分である消化液は体積が大きく、輸送コストが高くなりすぎるのです。

浸透圧・逆浸透・正浸透。
消化液のFO濃縮実験装置図。非常にシンプルな装置構成で、省エネルギー的に濃縮が可能。

省エネルギー的に、低コストで消化液を濃縮できるならば、これらの問題を解決できます。水再生工学研究室では、省エネルギー的な濃縮技術として注目を集めている正浸透(FO)膜処理を消化液の濃縮へ適用することを検討しています。大変に興味深いことに、消化液のFO濃縮ではほとんど膜ファウリングが発生しないことが明らかになっています。5倍程度の消化液濃縮は、極めて容易に達成できます。今後、処理装置の大型化や最適ドロー液の検討を行います。海の近くであれば、海水を使い捨てのドロー液として用いることで、極めて低コストでの消化液濃縮が可能になりそうです。