特集 02
屋根の下のバイオリン弾き、
資源とリサイクルを考える Fiddler under the roof, researching resources and recycling

選鉱技術のエキスパート
同時に環境対策も
工学研究院環境循環システム部門 資源再生工学研究室
教授
廣吉 直樹
玉石混交から玉を取り出す
鉱山資源を分離・選別する
私の主な研究テーマは鉱物資源の生産技術の高度化と資源リサイクリングへの応用です。地下には、私たち人類が文明を維持・発展させるために不可欠な金・銀・銅やレアメタルなどの金属を含んだ鉱物と、さほどの価値がない鉱物がまさに“玉石混交”で埋まっています。そのないまぜになった状態の鉱石をそのまま原産国から日本に運ぶとなるとコストがかさみ、とても現実的とはいえません。しかも多くの場合、必要な鉱物や成分の割合は不必要なものに比べてごくわずかです。銅鉱石中に含まれる銅の割合がわずか1%に満たないことも珍しくありません。
そこで鉱石から欲しい鉱物や成分のみを選別するために、比重や形状などの物理的な性質の差を利用する技術や化学的に分離・抽出する技術が必要となってきます。昔の技術で取り出せた資源はすでに消費され尽くしており、残された資源を利用するには新しい高度な技術を開発し続けなくてはなりません。
それと同時に、現在、我々に残されている資源の中には毒性の高い元素が共存することも多く、有用な成分を取り出した後の残滓物が鉱山周辺の土壌や水に与える汚染への対策についても考える必要があります。私の所属する研究室では、このような選鉱・製錬・汚染対策の技術を物理・化学や地学、ときには微生物などの生物に関する知識も総動員して、幅広く研究しています。
パソコンから金を取り出す
リサイクルにも技術を応用
天然の鉱物資源を対象に長年培ってきた分離・選別技術は、資源リサイクリングの分野にも応用できます。例えば、携帯電話やパソコンに使われている電子基板には、天然の鉱石よりも高い含有量で金が含まれています。また、多くの製品で使われているプラスチックはもともと貴重な石油を原料として作られているので、一度だけの使用で捨てずに何らかの形で再利用することが望まれます。使い捨ての時代から再利用が当たり前になった現代社会で私たちの研究がさらに役立てるよう、研究室全員で創意工夫に知恵を絞っています。



廣吉先生の裏の顔
Fiddle
研究で熱した頭に流れ込む
弦楽器の音色でリフレッシュ!
「屋根の上のバイオリン弾き」(原題は『Fiddler on the roof』)という有名なミュージカルがあります。「Fiddler」という単語が「バイオリン弾き」に相当します。日本でバイオリンというとヨーロッパのクラシック音楽のイメージが定着していますが、広く世界を見渡すとポピュラーや民族音楽など様々なジャンルで使われており、そのような場面ではFiddle(フィドル) という言葉の方がむしろ普通です。
わたくし、実は、高校3年の時にたまたま借りたレコードでDarol Angerというフィドル弾きの演奏を聴いて大いに感動し「受験が終わったらぜひ弾いてみたいなー」と思い、「フィドルを弾けるサークルがある」北大に来た次第です。こういった経緯があるので、私の中では「北大とフィドル」は不可分に結びついており、今でも工学部最上階(つまり屋根の下)の研究室での仕事と、ライブハウスやスタジオを舞台にしたフィドルの演奏を、人生の大切な両輪として日々を生きている次第です。研究で疲れた頭をフィドルを弾いてリセットするときもあれば、研究中に気がつけば頭の中で音楽が鳴っていることもあります。フィドルを通してさまざまな経歴の友人知人と出会えたことも、いい刺激になっていると思います。
最後になりましたが、フィドル弾きとバイオリン弾きの違いを面白おかしく話すジョークとして「バイオリン弾きは演奏中、自分自身に酔っているが、フィドル弾きは酒に酔っている」というものがあります。親しい友人によると「お前はこのジョークそのものだね」ということだそうです。

