Nature Photonics にキラリティ関連研究が紹介されました
応用物理学会春季学術講演会における発表が国際的専門誌の Meeting report に掲載
北海道大学大学院工学研究院 関川研究室の大学院生 大島隆之介氏による研究発表が、国際的な光科学専門誌 Nature Photonics の Meeting report「Chiral interactions inspire investigation」において紹介されました。同記事は、2026年3月15日から18日に東京科学大学大岡山キャンパスで開催された第73回応用物理学会春季学術講演会を取り上げたもので、同会議には9,076名が参加し、3,518件の発表が行われたことが紹介されています。記事では、その中から円二色性およびキラルフォトニクスに関する発表に焦点が当てられ、3件の研究発表が紹介されました。
このうち大島さんの発表は、キラル分子の光電子円二色性(photoelectron circular dichroism: PECD)を測定する装置の開発と、キラル分子 (−)-α-Phellandrene を対象とした光電子運動量分布測定に関するものです。記事では、時間分解PECD測定によって、従来の光電子分光ではアクセスが難しい分子内電子分布のキラリティ変化を捉えられる可能性があることが紹介されています。
PECDは、円偏光でキラル分子をイオン化した際に、放出される光電子の分布が光の進行方向に対して前後非対称になる現象です。従来の円二色性測定が光吸収の左右差を観測するのに対し、PECDは光電子の放出方向の非対称性を利用するため、キラル分子の構造や電子状態の変化に対して高い感度を持つ手法として注目されています。測定の結果、(−)-α-Phellandrene の光電子スペクトルにおいて、レーザーの進行方向に沿った前後方非対称性が複数の位置で観測されました。記事では、この成果が時間分解PECD測定への道を開くものであり、分子キラリティの変化を追跡するための第一歩であると紹介されています。
このように、大学院生による学会発表が国際的な専門誌に取り上げられたことは、関川グループにおける先端光科学研究の発信力と若手研究者育成の成果を示すものであり、学生にとっても今後の研究活動の大きな励みとなります。今後、PECDを時間分解光電子分光へ展開し、化学反応中に変化する分子のキラリティや電子状態を実時間で追跡することを目指します。キラル分子の構造変化や反応機構を高感度に観測することで、基礎分子科学に加え、将来的には光科学、キラル分子制御、生命科学・創薬関連分野への波及も期待されます。
掲載情報
掲載誌:Nature Photonics
記事種別:Meeting report
記事タイトル:Chiral interactions inspire investigation
掲載日:2026年7月2日
DOI:10.1038/s41566-026-01951-x
対象学会:第73回応用物理学会春季学術講演会
関連発表者:大島龍之介、又野修平、関川太郎 ほか
用語解説
キラリティ
物体や分子が、その鏡像と重ね合わせられない性質。右手と左手の関係が代表例であり、分子の性質や生体内での働きに大きな影響を与える。
円二色性
右回り円偏光と左回り円偏光に対する物質の応答の違い。キラル分子やキラル材料を調べる代表的な光学手法の一つ。
光電子円二色性(PECD)
円偏光でキラル分子をイオン化したとき、放出される光電子の角度分布が前後非対称になる現象。分子のキラリティや電子状態に敏感な測定手法として注目されている。
時間分解PECD
フェムト秒レーザーなどを用いて、化学反応や構造変化の途中でPECDを測定する手法。分子のキラリティが時間とともにどのように変化するかを追跡できる可能性がある。