はじめに

高次高調波の分光応用

高次高調波は,原子や分子と,強い光電場との相互作用によって発生します.摂動論では説明できないその発生機構や,発生した光の制御・応用などに関して,現在進行形で盛んに研究されています [1].その中でも,アト秒分光を中心とした時間分解分光 [2] への応用については,光科学分野以外からも多くの関心が寄せられています.
これまでのところ,高次高調波発生によって,真空紫外,極端紫外,軟X線,さらには硬X線領域における超短パルス光の発生が報告されています.これまでは,紫外~X線領域におけるパルス光源といえばシンクロトロン放射光でした.シンクロトロン放射光はパルス状の時間波形をもっていますが,その時間幅は数十ピコ秒程度です.そのため,アト秒はおろかフェムト秒のダイナミクスでさえ研究が進んでいませんでした.紫外~軟X線領域のフェムト秒,アト秒ダイナミクスに関する研究は,未踏の領域となっていたのです.したがって,高次高調波を利用した紫外~軟X線領域におけるフェムト秒~アト秒のパルス光源は,この未踏の領域を探索するための光源として大いなる可能性を秘めていると考えられます.我々はこの可能性に着目して研究を進めています.

[1]] 高次高調波発生及びアト秒科学に関する一般向けの解説
2016年ノーベル物理学賞を予想する① アト秒で切りひらく電子の世界(日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ)
[2] 時間分解分光およびフェムト秒化学に関する一般向けの解説
ナノ、ピコ、フェムト、アト…見えてきた超短時間の世界(気になる科学ニュース調査隊)